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2024/05/03 21:30 |
スクエア

仕事中、本当にまれにすいっと向けられる視線の先にあるのはいつも窓。


大抵は伝令用の鳥の影がそこを横切る時だ。


いつもどおりの無表情でさりげなく窓に顔を向ける。


我愛羅が待っているものに俺は気が付いている。手紙。それも火影からの。


三年前、旅立っていったあいつが今どうしているか、本当に些細な情報。


たぶんこいつはそれを心待ちにしている。


まるで片思いみたいに。


それが幸せなのか不幸せなのか解らねえけど、少なくても幸せそうに俺には見えてる。


いいじゃん。人間らしくてさ。


モノの用に扱われ続けたお前があいつと会ってから見せるようになった、人間らしい表情を見るたび、あいつに感謝せずにはいられない。そんなことはお前にも、あいつにも言えはしねえけど、テマリとは時々そんな話してる。本当によかったってさ。いろんな意味で。


たぶん、俺には謝らなきゃいけないことが山のようにあると思う。どうしようもなかったことだけど、俺はずっと忘れてた。お前が子供であることを、弟であることを、ヒトであることを。恐れ、見捨てて、切り捨て、それに気付かないふりをしつづけた。


周り中にそんな風に扱われ続けて、お前がヒトであれるはずが無かったんだな。


そんな当たり前のことに長いこと気付かなかった。


あいつに会って変わったのはお前だけじゃないんだ。お前が変わって、俺が、テマリが、全てが少しずつ変わっていく。気付かないほどにゆっくりと。


そうやって、変わったこの世界がお前にとって居心地のいい場所になるといい。心からそう思う。お前がしてきた精一杯の努力を、俺は知っているから、さ。


俺達は正しい意味で兄弟じゃなく、これからも、きっとそうはなれねえだろうけど、一番近い味方でいたいっていつも思ってるんだぜ?いつか、いつでもいい、そのことに気付いてくれよ。


罪は消えない。でもさ、贖うことはできるはずだ。


俺もお前も。誰もが。そう、俺は信じる。



お前が見ている四角く切り取られたような空は憎らしいほど青くて、真直ぐなあいつの目を思い出させる。


はやく、戻ってくると良いよな。どんな形でも。


お前が幸せなら、いい。


あいつが元気でいることが、今のお前のその顔を作っているんだろ?


だから、俺もそれを願ってやる。


小さくノックの音が響いて、お前は書類に目を戻し、またいつもの無表情に戻る。俺は扉をあけるためにドアに向かう。


四角く切り取られた空は今日もとてもきれいだ。



                               fin




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2015/08/11 00:04 | Comments(0) | お話
夜明け前

ふと気がつくと、見晴らしのいい高台に立っていた。見えるのは、どこまでも続く砂地とこうこうと照らし出す大きな月。


「…どこだ…?ここ…」


しんと凍りついたような夜の空気にナルトはわずかに身震いする。


見覚えがあるな、と考えて、ああ、と思い出す。砂の里の入り口の岩壁の上だ。


振り返ればかすかに里の篝火が見える。


それから、岩壁の端にうずくまる小さな影。強すぎる月の光が逆光になってシルエットしか見えない。何故自分がこんな所にいるのか、どうしても思い出せなくて、これは夢なのかもしれないと、ナルトは思う。


声をかけようと、一歩近づく。とたん、ざわりと空気が震えた。


驚いて足を止める。そのときになって、この場所をうっすらと血のにおいが満たしていることに気付いた。


ところどころ、地面に散らばったどす黒い染みにも。


「誰だ」


立ち尽くす気配に反応したように、唐突に声がかけられる。


「え?」


「…お前もオレを殺しにきたのか。」


今夜は多いな…と誰に言うでもなく小さく呟いたその声は、こんな夜中や、血のにおいとも、その物騒な言葉ともまるで不似合いな小さな子供の声だ。なのに、その幼さには似つかわしくないほど、その声は冷たく凍り付いて、うっすらと滲む殺気以外、何の感情も感じさせなかった。


「いや、違うってば…!」


とっさに否定する。その声をよく知っているような気がした。しかし、ありえない想像に何を言えばいいのか混乱するナルトを小さな影は訝しげに振り返る。


無表情の白い顔は、初めて会った頃よりもさらにずっと幼かったけれど、確かに彼の顔で。


「……我愛羅…」


思わず口をついて出た名に、硝子玉のような薄い緑の目にさっと警戒の色が走り、ざわざわと彼の周りの砂が舞い上がる。


(やばっ…!!)


弾丸のような速さで飛んできた無数の砂の飛礫を避けて、大きく後ろに飛びずさり、両手を上にあげて、敵意の無いことを示す。


「オレは敵じゃないってばよ。あー…ちょっと道に迷ったっていうか…思ってたのと違うとこに来ちゃって困ってるっつーか…、とにかく!殺そうとか、そんなんと全然関係ないから!!!大体オレは砂じゃなくて木の葉の忍だし!!」


額あてを指差すと、ぴたりと攻撃が止まる。体制を整え、警戒を解かないまま、こちらの真意を探るように、ひたと睨み付けて彼は重々しく口をひらいた。


「木の葉の忍が、なぜこんな所にいる?」


ナルトはどう話すべきか逡巡する。考えても此処にいる理由が頭からすっぽりと抜け落ちている。そもそも、我愛羅がこんなに小さいこと自体がおかしいのだ。夢としか思えないのに、夢にしてはあまりにもリアルだった。


「オレさ、任務で砂の里に用があって来たんだってば。だけど、途中でちょっとごたごたに巻き込まれてさ、こんなに遅くなっちまったんだってばよ。」


嘘をつくのは気が引けるが、それでも未来から来たとかここは自分の夢の中だとかいうよりはずっとそれらしいだろう。


幼い彼は、しばらく値踏みするようにナルトを眺めていたが、やがて、こちらに敵意が無いことを認めたのだろう、興味を失ったように目をそらした。同時に砂もパタリと地面に落ちる。


「早くここから立ち去れ。ここにいても、碌なことはない。」


つまらなそうに呟いて、彼ははじめに見たときと同じように、音も立てず崖の端に座る。


片ひざを抱え込むように蹲る小さな背中に、出会った頃の彼が透けて見えて。


考えるよりも先に声が出た。


「なあ、そっち行ってもいいか?」


返事を待たずに、すたすたと近づいて、その背中の傍らに座る。近づいた距離に驚いたように小さな我愛羅は顔を上げた。


「なぜだ?」


なぜ、そんなことを言い出したのか、なぜ、こんな近くにやってくるのか、心底理解できないという調子で発せられた短い問いに、ナルトは苦笑する。本当はただ、傍にいたいと思っただけだけれど、そんなことを言ったところで彼は信じることは無いだろう。だから、出来るだけ軽い調子で答えた。


「なんでって、今行ったって、役所はあいてないだろ?そんなに急ぎって訳じゃないからさ、朝になったら行くからそれまで付き合えってばよ」


邪魔はしないからさ、と言ってにかっと笑ってみせると、彼は不可思議なものを見るようにしばらくナルトの顔を眺めた後、僅かの間をおいて言った。


「すきに、すればいい。」


無表情のままどうでもいいことのように。そうして、また遠くへ視線をもどした。


「ん、さんきゅ。」


得られた許可に言った礼には何の反応も戻っては来なかったけれど、気にせず彼と同じように膝を抱いて目線を遠くにやる。


どこまでも続く砂漠と降ってきそうなほどの星空。いつか、彼と見たのと変わらない。


「いい眺めだってばな、ここ。」


返らない返事にそっと、隣をうかがうと、小さな彼は蹲ったまま黙って遠くを見つめている。だからナルトも、ただ言葉も無く、並んだままぼんやりと夜の砂漠を眺めた。


小さく風が鳴っていた。言えることなんてなにもない。


火の国とは違う水分をあまり含まない砂漠の空気はどこまでも冷たく澄んでいて、空の藍を映すみたいに視界の全てがぼんやりと青みがかって見えた。隣の小さな彼の横顔も。


砂漠の空気のように、冷たく青く澄んだ無表情だ。


麻痺しきった心を写し取ったような、無機質な目。


膝を抱いた手に顎を預けるようにして、じっと虚空を眺めるその顔立ちは、歳相応に幼いのに、ほとんど動かない表情は彼を長い年月を経た人ではないもののように見せた。


(こんな場所にずっとお前はいたんだな。)


眠ることも出来ない夜に、苦しさも、悲しさも飽和して知覚できなくなるほど深い闇の中でただ独りきり。ひたすら、自分を守るために害する何もかもを殺し続ける世界。


それ以外何も無い場所。


悲しさを苦しさを、殺意に振替えて、他の感情は何も持たず、傷ついた痛みさえ、感じられなくなっていた彼の心。


知っていたつもりだったけれど、目の当たりにすればあまりにも痛くて、ナルトは堪えるように唇を噛んだ。小さな肩を抱き寄せたくて手を伸ばしかけて、思いとどまる。


ずっと一緒に居られない自分に何が出来るだろう。


出会うよりもずっと前の。もう触れることも出来ない過去だ。


手を伸ばせば届く距離で、手を伸ばしても届くことの無い想い。


だから、言葉も無いまま、抱きなおした膝を抱えた手を握り締めた。


僅かな、けれど絶対的な距離を挟んで、並んで、ただじっと夜明けを待つ。


時が空気を刻んでいくのをずっと眺めた。


近くて遠い小さな彼と同じ景色を。


青白い月が大きく傾いて、夜の色の砂漠に埋もれていくから。


もう、夜明けが近い。


やがて、零れ出すように地平線が淡く白んで、ゆっくりと夜が明け始めた。ゆっくりと昇りだした太陽が、冴え冴えと満たしていた暗い青を駆逐し、闇を光へと塗り替えていく。


それに反応するように、浮上していくように現実感がとおのいて、頭の中が霞んでいく。


ああ、時間が来たんだと、ぼんやりする頭の中でナルトは思った。


見れば、手も足も身体も、頭の中と同じように滲むようにかすれ始めていた。


変わった気配に振り向いた彼は、たぶん、うっすらと消え始めた自分に気がついて、驚いたように僅かに目を見開く。


それがどうしてか、うれしくて、かなしくて、ナルトはほんの少しだけ笑った。


今の自分は、この彼を置いていくしかないけれど、自分達は必ず出会うのだ。


この場所からほんの少しだけ未来に。


自分達は出会って、一人じゃないことを知る。


せめて、それを伝えたくて、ナルトは急いで、呼びかけた。


「なあ、」


声に反応したように、ぴくりと震えた肩に、許されたような気がして、消えかけている右手で、そっと、小さな彼の頭に触れる。変わらない、少し猫毛気味の柔らかい髪。子供特有の高めの体温。ほとんど動かない目で自分を見つめる表情に、引き絞られるみたいに胸が痛むけど。ナルトはその目を覗き込むようにして笑った。


意識をかき集めるようにして、言葉を紡ぐ。


「お前は一人なんかじゃねえんだよ…。」


今はわからなくても、それを知る日が必ず来るからと、薄らいでいく意識の中で、ちゃんと声になって届いていたらいいと思った。


出会える日をずっと待ってる。


最後に目に映ったのは、まっすぐに自分を見つめる小さな彼のどこまでも透明な緑色の光彩と、白く世界を染めていく朝日。


それは、とてもきれいで、きれいで。


泣きたくてたまらなくなった。





ぼんやりと目を開けると、目に映るのはうす暗い夜明け前の自分の部屋の天井で。


視線をさまよわせて探せば、すぐ隣に彼の姿を見つけた。


同じベッドの上で、小さなスタンドを一つつけて、本をめくっている。


「があら…」


小さな声で呼べば、我愛羅は顔をあげて、ナルトに目線を向けた。


「なんだ、起きたのか?」


まだ早いぞ、と小さく笑う。読みかけの本を伏せて、寝転がっている自分の頭の横に手をついて、覗き込むみたいにしてくる彼の緑の目の中には、もう、あの彼のような無機質な色は無くて。変わりに穏やかで柔らかい光がある。


ちゃんと、会えた。


その温度をもっと、ちゃんと確かめたくて、ナルトは手を伸ばして、胸の上に乗せるみたいにしてキスをした。


「どうしたんだ?」


怖い夢でも見たのか?と、触れるだけのキスの後近い距離で目線を合わせて、我愛羅が不思議そうに問う。その声が、柔らかく鼓膜を震わせるのを感じながら、ナルトはちいさく首を振った。抱き寄せる腕に力をこめる。もう、一人じゃないことを確かめるみたいに。


「今、ゆめでさ、昔のお前に会ったよ…。」




                                Fin


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2015/08/02 21:41 | Comments(0) | お話
拍手お礼

エヌさん>感想ありがとうございます!大昔に書いた作品なので、原作とは大幅に違ってしまったのですが我愛羅さんの過去に少しでも救いをと一生懸命思って書いた話です。気に入っていただけたなら本当に嬉しいです。これからもどうぞよろしくお願いいたします。


 


鳥さん>久々に書いた作品だったので、エンドがつくかドキドキしましたが、何はともあれお目にかけることが出来て、そして、少しでも気にいっていただけてほっとしました。
一方的に寄りかかるのではなく、お互いを気にしながらそっと体重をかけ合うような二人を書いて行けたらなと思っています。七夕の続きはいずれお目見えできるようにがんばります^^
これからもどうぞよろしくお願いいたしますv

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2015/07/27 22:42 | Comments(0) | 未選択
カイダン

それは良く晴れた梅雨明けの頃の話。


 


その日、ナルトは最近ではめっきり請け負うことがなくなったDランク任務の帰りだった。それを受けるはずだった下忍が諸事情により急遽任務につけなくなり、偶然、明日からの休暇の申請にアカデミーに立ち寄っていたナルトが、今日は夕方まで暇だし、と引き受けたからで。


任務内容は近くの村の果樹園で桃の収穫の手伝い。


多重影分身を使って一日かかる仕事をほぼ一時間ほどで仕上げると、仕事の速さに驚きつつも感激した果樹園の主は規定の料金に大幅に上乗せをしたあげく、とれたての上等な桃を大きな袋にぎっしりつめて持たせてくれた。


左手に下げた袋はふんわりと甘い匂いを漂わせていて、それだけで気持ちが浮き立つ。


しかも、今日の夕方には我愛羅が来るのだ。


三日後からの近隣の里の代表者の会議に出席するので、それに合わせて二人で過ごす為の二日の休暇をとって。


(あいつも、桃は結構好きだし!)


驚く顔が頭に浮かんで、ナルトは思わず目を細めた。早く会いたい。


急いだところで会える時間が早まるわけではないけれど、自然と家路を辿る足は速くなる。


午後の空はきれいに晴れていて、少しだけ暑い。


ジワリとしみる蒸し暑さに、アクリル絵の具で塗りつぶしたみたいな鮮やかな青色の空を見上げながら、もう、夏も近いなと、思った。


暑いのも夏も嫌いじゃない。


どうしてか解らないけど、何となくワクワクするから。


(まあ、我愛羅は暑いの、苦手なんだけど。)


砂漠育ちの彼は、暑さそのものよりは、蒸し暑さに弱い。


夏に会うときは、人前ではおくびにも出さないけれど、二人っきりになると、暑いっ!とかブツブツいいながらクーラーのリモコンを抱えて、壁にもたれてぐったりしていたりする。エアコンも苦手だけれど、背に腹はかえられないらしい。


彼が自分だけに見せてくれる顔だ。少しかわいそうだけど、そういう顔を見つける度、ナルトは嬉しくてたまらなくなった。


「でも、ま、今日くらいなら大丈夫だな。」


明日から二日間は自分も我愛羅も完全なオフだ。よっぽどの事件が起きない限り、三ヶ月ぶりにのんびり二人ですごせる予定。


明日は暑くなる前の午前中に、弁当でも持って、どっか涼しい場所にでかけるのも良いかもしれないと、ナルトは思う。


どうせなら、人気が少ないところがいい。我愛羅もリラックス出来るような。


(どっかちょうどいいトコ、あったかな…?)


楽しい明日の事を考える時間は、最高に贅沢だ。我愛羅も一緒の休日ならなおのこと。


ああでもない、こうでもないと考えながら歩けばあっという間に、自分のアパートに着いて、足取りも軽く、ポケットの中の鍵を探しながら階段を上る。


「あ?」


上りきる直前、いつもと違う気配にふと、かおを上げナルトは、腕を組み自分の部屋の扉にもたれかかる様にして空を見上げている見慣れない人影を見つけた。


向こうもナルトに気付いたのか、一瞬の間をおいて、向けられた視線がかちり、とあう。


「あんた、誰?家になんか用?」


この暑いのに、黒い長袖のTシャツに黒の長ズボンの全身黒尽くめの男。


見覚えの無い顔だ。細身ではあるが無駄なく鍛え上げられた身体も、どこか隙の無い気配も明らかに忍のそれで、なのに何処にも所属する里を示す額あてもない。


あきらかに怪しいけれど、どうしてか嫌な気配はまるで無く、ナルトの眉が訝しげによる。一応取った数メートルの距離を置いてその男に声をかけると、彼はもたれていた扉から身体を起こして、こちらをまじまじと眺め回したのち、すうっと僅かに口の端をあげた。


その、仕草が良く知っている誰かに似ている気がして、ナルトは首をかしげた。


「お前がうずまきナルト、か?」


笑みを含んだ問いかけは、少し不遜で、どこか有無を言わせないそんな響きがある。いつもなら、反発心のひとつもわいてくるところだが、どうしてか、そんな気分にならなくて、ナルトはため息を一つついて頷いた。


「そうだけど。」


「そうか。」


一人で納得したような表情で男は小さく声を立てて笑った。


知らないのに、どこか見覚えのある仕種。


「で、あんたは誰で、何の用だってばよ。」


「…ああ、今日ここに砂の風影が来ることになっているだろう?渡したいものがある。


お前に預かってもらいたい。」


そんな言葉と共に男は、懐から布で出来た手のひらに収まるくらいの小さな袋を取り出して、ナルトに差し出した。


危険なものじゃないのは気配でわかる。敵意も殺意も、ヤバイ気配はまるで無い。けれど、どうにも不自然で、拭い去れない強い違和感が不信感を募らせてナルトは顔をしかめた。


「あんた、なんでそんなこと知ってんの?あんた、忍だろ?砂の忍だったら、砂の里であいつに直接渡せばすむことじゃん。なんで、わざわざオレのところに来てるわけ?つーか、頼みごとするなら名前くらい名乗ったってバチはあたらねえと思うんだけど。」


そう言うと男は一瞬驚いたような感じで目を丸くして、それからすぐに、ゆるく口の端を上げた。


「…事情があって名乗ることは出来ない。それに、オレは今は忍じゃないぞ。大分前に一線は引いた。そのときに里を抜けたから、砂には入れなくてな、わざわざお前を訪ねてきたわけだ。どうしても、今の風影に渡しておきたいものが見つかったんで、な。」


手の中の小さな袋に目を落として、何かを懐かしむような表情で、そっと握りこむ。


「言えないことばかりで悪いが、頼めないだろうか?」


依頼の言葉と共に、まっすぐ見つめてくる目とその表情は、どこか、強く真剣で。


ナルトは一つため息をついて口を開いた。


「…あんた、我愛羅の知り合い?」


「…ああ、まあ、な。もっとも随分長く会っていないが…」


「じゃあさ、会ってけば?」


「は?」


さらりと出された提案に、虚を突かれたように、見つめてくる男の視線を受け止めて、ナルトはあっさりと言った。


「あいつ、そろそろ着く頃だし。それ、大事なもんなんだろ?ならさ、直接渡したほうが良いってばよ。」


ごく、自然なしぐさで、男との距離をつめ、ナルトは自分の部屋のドアに鍵を差し込んだ。


小さく音を立てて扉を開く。


「いいのか?」


「ん?」


「身上も解らない人間を家にあげても。」


軽い驚きと困惑の響きを含んだ問いかけに、振り向いてナルトは男の目をまっすぐ見て言った。


「だってあんた、我愛羅にそれをさ、渡しに来ただけだろ?」


「ああ。」


「あんたの、言葉はなんか嘘っぽいけど、気持ちの根っこみたいなトコには、嘘が無い感じがするからさ。信頼しとくってば。ほら、入らねえの?茶ぐらい出すってばよ?」


開けたドアを片手で押さえながら、冗談めかしてナルトが言うと、男は、少し考えるように、口元に手を当てた後、僅かな間をおいて口を開いた。


「…わかった。それなら、甘えさせてもらおうか。」


「そうそう!こうゆう場合は甘えとくのが正解だって」


ナルトはドアを大きくあける。ほら、早く!と促されて男はやけに、真面目な表情で、玄関をくぐった。


 


 


 


「とりあえず、その辺に座っといてよ。」


男を部屋へと招きいれたナルトは、居間のソファーのあたりを指すと、自分は台所に立った。持ちっぱなしになっていた、袋から桃を二つばかり出してから、残りを冷蔵庫にしまう。妙なことになったと、思わないではなかったが、どうしてか、そうしなければならない気がした。シンクの上の戸棚から、自分用のと、一応客用のほとんど使ってないカップを出す。


「ん~。緑茶でいっか。」


少し考えてから、我愛羅用に買ってある煎茶の缶を出して、薬缶を火にかけた。


「…それはお前のか?」


不意に声をかけられてナルトは手に持った缶を落としそうになる。


振り向くと、男が立っていて、ナルトが開けた戸棚を見ていた。手をのばして手動のコーヒーミル示す。


「あーもう、びっくりさせるなって…ああ、それ?それは、オレのじゃなくて我愛羅の。我愛羅、コーヒー入れんのめちゃくちゃうまいんだってばよ?」


そう言って笑って見せると男は、しばらくの間、黙ってそれを見つめてから、すこしだけ優しい顔でうっすらと笑った。一瞬その表情がもうすぐここに来る彼と重なって、ナルトは目をこする。男はかまわず、棚からそれを手に取って言った。


「豆はあるのか?」


「…えっ!ああ…冷凍庫に前、我愛羅が置いてったやつが…おっさん?」


「オレが入れてやろう。これでも結構うまいんだ。」


「ええ?」


渡された袋をあけ、男は慣れた手つきで、ミルに入れると丁寧なしぐさで、豆を挽く。


「ドリッパーは冷蔵庫か?」


「…そうだけど。」


冷蔵庫からビニールに入れられたネル地のドリッパーを出して渡すと、男は軽く礼を言い、挽き終わった豆を入れて平らにならし、沸いた湯をゆっくりと注ぎいれた。


いつも、我愛羅がするのと同じ手順。ふわりと部屋に広がるコーヒーの匂い。


不思議な感じがする、妙に現実感の無い空気。


二つのマグカップに入れ終わったコーヒーを注ぎいれ、男は片方をナルトに差し出した。


「まあ、飲んでみろ。」


自信たっぷりの表情に、ナルトは少し呆れながら、渡されたマグカップに口をつけて、おもわず目を見張る。いつも、我愛羅が入れてくれるコーヒー以上に香りも味も柔らかくて飲みやすい。


「どうだ。うまいだろう?」


反射的に頷けば、男は得意げに笑って、自分もマグに口をつける。


「なあ、ひょっとして、我愛羅にコーヒーの入れ方とか教えたのっておっさんなのか?」


「ん?いや。オレが居たときはあいつはまだ小さかったからな…。カンクロウじゃないか?


あいつはオレが入れてるところを何度も見てるしな。」


「え、おっさん、兄ちゃんとも知り合いなの?」


「まあな。」


入れてもらったコーヒーを飲みながら、とりとめもなく、色んな話を聞いた。


我愛羅の小さい頃の話や、砂の里の話。


時間はあっという間に過ぎていく。


ふと、男が窓の外に目をやった。


「ああ、もう日が暮れるな。」


「ん、我愛羅の奴、なにやってんだろ?4時過ぎに着くって言ってたんだけどな。」


眉間に皺を寄せてナルトが言うのに、男は静かに言った。


「…もう、着くはずだ。」


「へ?」


男は意味深に笑う。それとほぼ同時に呼び鈴が鳴った。


「ほらな?早く出迎えてやってくれ。」


「ああ…うん。」


ぽんと、軽く背中を押されて、ナルトは急いで玄関に向かった。ああ、我愛羅の気配がする。ナルトは自然と笑顔になった。


短い廊下を抜け、扉に手をかける。


「……これからも、あいつをよろしく頼む。」


「え?」


ドアを開けた瞬間、耳元で小さくそんな声が聞こえた気がして、ナルトは思わず振り向いた。背後には誰も居ない。


「どうしたんだ?」


訝しげに我愛羅が問う。


「ん、なんか、聞こえた気がしてさあ。それより、おかえり。」


「ああ、ただいま。」


軽く笑顔を交わして、荷物を持ってやり、その細い肩を押して招き入れる。


「あのさ、お前にお客さんが来てるんだよ。なんか、昔、お前や兄ちゃんや姉ちゃんの先生かなんかしていた人らしいんだけどさ。」


「バキか?バキは今回は木の葉には来ていないはずだが…」


「いや、バキ先生ならそういうってばよ。オレは初めてあったんだけどさ。なんかお前に渡したいものがあるって。」


「……そうか。」


考え込むように我愛羅は口元に手を当て眉間に皺を寄せた。どうやら、当てはまる人物の記憶がないらしい。その様子にナルトも困惑する。


「まあ、いい。」


「そ?」


「ああ。お前がいうなら、問題ないだろう。行こう。」


「…うん。おっさん!我愛羅、着いたってばよー。あれ?」


そう、叫んで、ナルトは男を待たせている居間のドアを開けた。けれど。


そこにはもう、誰も居なくて、さっきまでコーヒーを飲んでいたカップがテーブルの上に残されているだけ。


さっきまで、確かにここに居たはずの男は、気配も無く消えてしまっていた。


「?どこに居るんだ?」


立ち尽くすナルトを、我愛羅が問うように見上げる。


「え?いや、さっきまで確かにここで…」


男が座っていたテーブルに寄ると、カップの陰に隠されるように、あの小さな袋が置き去りにされていた。


 


 


 


「だからさあ、本当に居たんだって!!」


座って、ナルトは言い訳のように言った。


「ちゃんと、証拠だってあるだろ。その袋」


我愛羅の前に置かれた袋を指す。我愛羅は桃の薄皮をきれいに剥いて、食べやすいように切り分けながら、ため息をついた。


「居ないんだ。」


「へ?」


言われたことの意味が解らない、という表情でナルトは我愛羅を見る。


「だから、居ないんだ。この15年ほど、砂の里から抜け忍は出ていない。それに、オレとカンクロウとテマリは、そもそもの所属が違う。同じ師匠に着いたことはない」


「…バキ先生は?」


「バキは…中忍試験というか、木の葉くずしのためのフォーマンセルの頭に任命されただけだ。あの頃の砂の里は、木の葉とはまるで違う組織図だったからな。」


「え?そうなの?」


我愛羅が言うには、あの当時、砂の里にはアカデミーのような学校は無く、4歳くらいで行われる選別試験によって、専門の組織に振り分けられるのが普通だったらしい。


カンクロウがチヨばあのいたクグツ使いの組織に振り分けられていたように。


「じゃあ、じゃあさ。あいつって何者?」


「そもそも、本当にその男はいたのか?」


真面目な顔でそう問われて、ナルトは不服そうに顔をしかめる。


「なんでそんなこと聞くんだよ?話したじゃん。」


「この家に着いたとき、お前の気配しか感じなかった。」


我愛羅の言葉に、ナルトは目を見開いた。


「え?」


「知らない気配なら気付かないはずがない。だから、おかしいと言ってるんだ。」


切り分けた桃を一かけら口に入れて、我愛羅は小さくため息をついた。


ナルトは、テーブルに乗せられた、あの男に渡された、小さな袋を手にとって、目を落とす。


「でも、居たんだよ。話したんだ。」


「…そうだな。そうかもしれない。」


「うん。」


ナルトは頷いて、差し出された桃を口にいれた。


頭をあの男の顔がよぎる。我愛羅のことを話すとき、懐かしげに、眇られた目。
ナルトは手の中のふくろを我愛羅に差し出した。
「なあ、開けてみろってばよ。なんか解るかもしれねーし。」
「……それも、そうだな。」
手に落とされたそれのしっかりと結ばれた紐を丁寧に解いて、中から出てきたのは小さな
石がいくつも埋め込まれた銀の筒。
首から下げられるように細い銀鎖に繋がれている。
「ペンダントにしちゃでかいよな。きれいだけど。」
ナルトは我愛羅の手の中のそれをみて首を傾げた。
しかし、我愛羅は驚いたように目を見張り、何やら真剣な顔でいじり始める。
「何?どうしたの?」
「いや…」
銀筒の胴の部分に規則正しく配置された石を一見でたらめにも見える複雑な手順ですばやく押していくと、カチリと音を立てて筒のサイドが開いてスイッチのようなものがあらわれた。
「何で開いたの?」
「この石を押す順番とタイミングが鍵になっている。」
ナルトの問いに答えながら我愛羅は難しい顔になった。
「どしたの?」
「この鍵は、歴代の風影と砂の長老しか知らないはずのものなんだが…お前にこれを渡したのは、若い男だったんだろう?」
「ああ。若いっても、三十すぎって感じだけどな」
「……そうか。」
それだけ言って、再び黙り込む。深刻そうに眉を寄せる我愛羅を、しばらく見つめて、執り成すように軽くナルトは口を開いた。
「でもさ、それがあのおっさん本人のものとは限らないだろ?昔のその鍵の事をしってる誰かの物をさ、届けるに来ただけかもしれねえじゃん。」
「それはそうだが…」
「ならさ、それの中身が何なのか確かめる方が先だろ。ほら、かしてみろってばよ。」
「あ!こら!馬鹿!」
ナルトは、ひょいと我愛羅の手からそれを取り上げると間髪いれずスイッチを入れた。
すると、小さく音を立てて開いた底が強い光りを放った。
「え?何!?」
「…幻燈機か。」
驚いて、銀筒を落としそうになったナルトから、それを取り返して我愛羅は興味深げに目を落とした。
「げんとうき?」
「幻燈機、だ。この光で中に入っている写真を壁に映すんだが…。」
ナルトの問いに答えながら、我愛羅がスイッチを動かすと、散っていた光りが一つに集束して、白い壁にぼんやりと像を結んだ。
「見づらいってばよ?」
部屋の明るさにはっきりしない映像にナルトがぼやく。
「部屋を暗くすればちゃんと見えるはずだ。」
我愛羅に言われたようにナルトはぱちんと部屋の明かりを消した。
壁に映し出されていたのは一人の女性。美人というよりはかわいらしい印象の女の人が優しい顔で笑っている。
「すごいな、これ。」
そう、感心しながら隣を見ると、我愛羅は凍り付いたような表情で、映し出された写真を見つめていた。
「我愛羅?」
「………母だ。」
呼びかけた声に、我愛羅は押し殺したような声をもらした。
「かあちゃん?お前の?」
問いかけには答えず、我愛羅はほぼ無意識に銀筒のスイッチを動かした。
カチカチと音がする度、壁に映る映像が切り替わる。ほとんどが同じ女の写真だった。古いものから順に並んでいるらしく、途中からは赤ん坊や、どこか見覚えのある子供の姿が加わっていく。
何枚目かの写真を見て、ナルトは声をあげた。
「あ、ちょっともどして!!」
ナルトに言われて、写真を数枚もどす。
「あ、これ。こいつだってばよ。これ、持ってきたの。」
「………」
妊娠しているらしいさっきの女と、彼女にまとわりついた二人の子供。それから、その様子を笑顔で見つめている男の姿。ナルトが示したのはその男だった。


「…ありえない…。」


衝撃に小さく掠れた声がこぼれる。そこに映っている男は、今はもういない良く知っている男。けれふどその表情は知っているものとはまるで違っていた。見たことのないやさしい笑顔。時間の止まった写真の中に。


「どうしたんだ?」


「いや…。」


呆然と立ち尽くす我愛羅にナルトは、声をかけた。はじかれたように我愛羅が顔を上げる。


しばらく答えを迷っていると、ナルトはもう一度銀筒を手にとって、スイッチを動かした。


その写真の後には、数枚の写真しかなかった。


一枚は少しくらい表情の、男と何かを悟りきったような表情の女。


一枚は気の強そうな幼い少女と口をへの字に曲げた少年の姿。もう、誰なのかはすぐに解る。


それから、何処か張り詰めたような気配のする四人の写真。


「この子たちって、兄ちゃん達に似てる、よな。」


「…ほんにん、だから。」


「え?」


「それは、テマリとカンクロウ、だ。その男は、父、だ。」


「父って、お前の父ちゃんって死んでるじゃん!!」


「それでも、間違いない…。なんで…。」


死んだはずの彼から届けられた、写真。家族の写真。その意味は解らなかったけれど。


俯いた我愛羅の肩をナルトは支えるように触れた。


ふと、気付く。スイッチのすぐ下に、もう一つボタンが現れていることに。


そっと、そのボタンを押す。カチンと音がして、二枚の写真が現れた。


「なあ、あれって、お前?」


一枚は複雑な顔をした男が一人で赤毛の赤ん坊を抱いている写真。何か強い決意を固めたような目で、腕の中の赤ん坊を見つめている。


最後の一枚は小さな我愛羅だ。真新しいクマのぬいぐるみを抱えて、小さくまるまって眠り込んでいる姿。


「…お前のちっちゃい頃の写真ってはじめてみた。かわいいな。って、があら?」


ふと見た隣の彼は俯いたまま小さく震えていて。その頬を伝っては落ちる雫に、ナルトは気付かない振りをした。


見ないように抱き寄せる。


「よかったな。」


なにが、良かったのかはわからないけど、それ以外に言葉は見つからなくて、それでも、腕の中の彼は何度も頷いていたから。それでいいんだと思った。


死んだ男からの贈り物。ちょっとした怪談。


それは、不器用だった彼が伝え損ねた、彼の思いだ。


最後の彼の言葉を思い出す。


(これからもあいつをよろしくたのむ。)


(わかってるって。まかしとけってばよ。)


胸の中でそう返して、ナルトは腕に力をこめた。


 


 


 


 


                                       Fin


 

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2015/07/19 03:04 | Comments(0) | お話
残響は消えない

お前の声がする。残響のようにいつも耳の奥でなっている。


お前の声が聞こえているうちは大丈夫だと、いつも、自分にそう言い聞かせる。



正気を保たなくてはいけない。



ざわめく背後の声をごまかすために、お前の名前を呼んだ。


繰り返し、声にはせずに。


お前を思い出せるうちは大丈夫。大丈夫。大丈夫…。


何度も、そう言い聞かせながら、日々をやり過ごす。


大丈夫、オレはちゃんとオレでいられる。


怒るな、疑うな。今はすべきことをすればいい。


力を自分のために使うな。それはオレ自身のものじゃないのだから。


眠らない夜はなれている。


なら、その時間を無駄にするな。オレには普通の人間より時間がある。


それを喜べ。



からっぽのオレの世界に、今はお前がいるから、遠くに光が見える気がした。


たとえ、それが幻想だとしても夢を見るくらいなら自由だ。


(絶望と希望は混在する。それでも何もないよりずっといい。)



向かい合う人の顔に昔の表情が透けている。


見えない振りをするために繰り返し残響に耳を澄ました。


まるで縋り付くように。いつも。なんどでも。


壊してきたものは戻ることは無い。


分かっている。


繰り返し思い知らされる現実は見据えなければいけない。


重ねた罪は贖おう。誰のせいにもせずに。


あせってはいけない。わかっている、痛みは永遠に終わることなど無いことも。


けれど、遠くに光がみえている。(気がする。たとえ幻覚だとしても)


大丈夫。オレは正気だ。


大丈夫。オレは、ちゃんとヒトでいられるから。


お前が存在しているかぎり。何があっても。


石を積むように、オレはただ積み重ねている。


お前の名前と、現実を。



いつか、もう一度会う日のために。



耳の奥の残響は消えない。オレはひとりじゃない。



                       Fin

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2015/07/13 23:57 | Comments(0) | お話

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