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2024/04/20 11:42 |
ナル我のススメ サンプル
アンソロに出すテキストちょこっと公開しますvv



ラブアフェア


「上がったぞ。」
だぶだぶのナルトのタンクトップを引っ掛けた細身の身体には、あちこちに小さな赤い痕。色が白い上、湯上りだから余計に目立つ。
あ、ちょっとつけすぎたかも…なんて、欲望に忠実だったさっきまでの自分に苦笑しながらナルトは彼のために常温で置いてある水をグラスに注いだ。
「我愛羅、飲むだろ?」
「ああ。」
テーブル脇の椅子に座りながらグラスを渡すと、我愛羅は立ったまま一口、口をつけて、テーブルに肘を付いてにんまりと自分を眺めているナルトにちらりと視線を向け、眉をひそめた。
「お前…なんか着たらどうだ?」
「へ?だって、すぐオレも風呂はいんだからいいじゃん。」
「…そういう問題か?」
軽く言ったナルトに、実に嫌そうにそう言って、我愛羅はグラスの水を一気にあおった。口の端から少し水が零れて細いのどを伝い、タンクトップにしみをつくる。
こぼれた水の感触に不快そうに我愛羅は顔をしかめて手の甲で乱暴に口元を拭った。
しっとりと濡れた薄い唇が色っぽくて妙にそそられる。
ナルトは少しだけためらった後、手を伸ばして我愛羅の手を捕まえ、その身体を引き寄せた。急に腕を引かれたせいで、軽くバランスをくずして倒れこんでくる身体を受け止めて、手を掴んだまま片手でぎゅっと抱えこむ。
「おい…」
ナルトの膝に座るような形になった我愛羅の、困惑交じりの文句の言葉を封じるように水滴にぬれた喉をなめるとひくり、と細い体が震えた。

                             つづく

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2015/09/10 12:17 | Comments(0) | サンプル
いつか何処かへ還る日に。

その日はとても天気が良かった。
久々に得た二人だけの休日。何をするのかは、まだ決めていない。
窓から見える、鮮やかな青に染め上げられた作り物めいた空に誘われるように、
 この家に着いたばかりの我愛羅と二人、ベランダに出た。
吹き抜ける風気持ちが良くて目を細める。降り注ぐ金色の光が眩しい。
細い手すりに凭れて空を見上げた。我愛羅は両腕を乗せるみたいにして、ナルト
 は背中を付けるみたいにして。
持ち出したサイダーを入れたグラスがパチパチと涼しげな音を立てていた。そん
 な音が聞こえるくらい静かだった。
びっしりとついた水滴がグラスを持つ指を濡らす。
音を立てる細かな丸い気泡ごと飲み込むようにナルトはグラスに口をつけた。
馴染んだ刺激がのどを滑り落ちていく。隣で我愛羅も同じようにグラスに口をつ
 けていた。
二人で過ごす時間は、いつもどこか空間を切り離されたようにとても静かだ。
言葉が、あっても無くとも。
そんなことをぼんやりと考えながら、白い横顔を伺えば、我愛羅は、手すりに乗
 せた腕に体重を預けるようにして、空を見上げたままで不意に口を開いた。
「明日、死ぬとわかったらお前は今日何をする?」
「お前、突然何言い出すんだってばよ。」
唐突に投げかけられた、不吉な問いにナルトは顔をしかめた。その様子を見て我
 愛羅はわずかに口の端を上げる。
からり、とグラスの中で氷が鳴った。
「この間テマリが何かの本を読んで言っていたのを思い出した。」
そう言う表情が少し楽しげに見えて、ナルトは表情を緩め、続きを促す。彼が楽
 しそうだと、自分の気持ちまで浮き立つ。声が軽く弾んだのがわかった。
「ふうん。姉ちゃんは何て?」
「何が何でも奈良の所に押しかけるそうだ。」
「へえ、姉ちゃんらしいな。」
それを言うテマリのきっぱりとした姿が容易に思い浮かんで、ナルトは口の端を
 上げた。
「その瞬間まで、少しでも近くに居たいと言っていた。たとえ、行き着けなくて
 も。」
「そう、だな。なんか、わかるってばよ。」
そのきもちはわかる。きっと自分もそうするだろうな、とナルトはおもう。きっ
 と、我愛羅も同じことを思ったのだろう。それを言う我愛羅の目はやさしく細め
 られていたから。
「で、お前はどうするんだ?」
我愛羅は笑みをひっこめて、真面目な顔で初めの話題を引き戻す。
「え?んー…明日、だろ?なら、いつも通りに過ごしたいってば。」
問いかけに、少し考えて、すぐに出た答えを口にした。いつも思っていることだ
 から。
「………」
微妙な顔で見つめ返してくる大きな目に苦笑しながら補足する。
「いや、だって、今お前はここにいるだろ。居なかったら、とりあえず砂の里に
 向かうけどさ、お前がここにいるなら…」
一度言葉を切って、風が揺らすその髪に触れて、ナルトはやさしく笑って続けた。
「お前といつも通りに過ごしてえよ?一緒に寝て、起きて、飯食ってさ、色んな
 こと話して、ちょっと買い物とか散歩とかに出かけたりして、抱きしめたり、キ
 スしたり、セックスして、別に特別なことなんかいらねえから、そんな風にいつ
 もみたいに過ごしたいってば。」
ごく普通に二人で過ごすこと。特別なことなんかよりずっといいと思う。
まるで、あたりまえみたいに、そうしていたいと思った。
実際のところ、一緒に居ることそのものが特別のようなものだけど。
「そう、か…」
納得したのと同時に、照れたようにそらされた目線を追う。
赤く染まった耳がかわいくて。
だから、余計に聞きたくなった。我愛羅の答え。
「なあ、おまえは?」
「ん?」
軽い調子で問いかければ、そらされた目線が戻ってくる。
「お前はどうすんの?何したい?」
まっすぐに向けられる目線をそのまま受け止めて、問いかけを重ねた。
「それくらい言わなくてもわかるだろう?」
「オレは・お前の・言葉で・聞きたいの。ほら、言って言って!!」
軽く首をかしげて、我愛羅は何で今更そんなことを聞くんだとでも言いたげな顔
 で問いを交わそうとするのを許さずにナルトはねだるようにだめ押した。
何がなんでも聞きたい、という気持ちをこめて、その目を覗き込めば、我愛羅は
 居心地悪げに視線をそらす。
それから、少しの間をおいて、ぽつん、と言った。
「お前と一緒にいる。」
「何よ。それだけー??」
簡潔な言葉が物足りなくて、ナルトは口をとがらすと、視線をナルトに戻した彼
 は、しごく真面目な表情で静かに続けた。
「……お前が居ればいいんだ。どこでも、何をしても。最期にこの目に映るのが
 お前なら、それでいい。」
その声が、あんまりにも真摯で、透明で、鼓膜さえも通さずに直接胸に刺さるよ
 うな感じがして、ナルトは不意に訪れた痛みを堪えるようにぐっと息をのんだ。
「………なんか、すごい嬉しいけど、なんかすごい負けた気がするってばよ…。」
ちょっと情けない声を出すと我愛羅が小さく笑う。
「こんなことに勝ち負けがあるか。」
「んー…まあ、そうなんだけど。…ま、いいか。オレもお前が居ればいいんだか
 ら、同じ気持ちってことだよな!!ん、両思い。いい感じ。」
「………」
正直、嬉しいのと悔しいのが交じり合ったような複雑な内心を前向き思考で押し
 流して、けろりとそう言えば、我愛羅はその切り替えの早さに呆れたような顔で
 ナルトを見た。
その表情が不満でナルトは口を尖らせる。
「なんだよ、その顔。」
「いや、別に。」
幼い子供を見るような眼差しに、ナルトはわざとらしく大きなため息をついてか
 ら、手すりに突いた腕に頬を預けてぼやいた。
「またオレのこと単純だとか思ってただろ…いいけどさあ。そのとおりだし。で
 もさ、そういうことだろ?一緒に居るって、どっちか片方がそうしたいって思っ
 たって出来ることじゃないもんな。だから、同じ気持ちってのはすっげ大事なこ
 となんだって、オレはおもうよ。ずっと一緒ってのは無理でも、最期は同じ気持
 ちでいてえよ?少しでも近くでさ。でもほんと、最期に見る顔がお前だったらい
 いな。こんな風ないい天気の日で、最期まで、お前と笑えたらいいよな。」
俯きがちに漏らした本音は自分でも驚くほど真摯な響きを帯びた。それが照れく
 さくて誤魔化すようにナルトが笑うと、我愛羅はとても静かな表情でぽつり、と
 同意した。
「そうだな……。」
また、一口サイダーを口に含む。青い空を映したグラスの中のソーダ水もきらき
 らと何処までも青く青く見えた。滴るほどの水滴が指を濡らすのも涼しく、気持
 ちが良いほど強い日差し。吸い込まれるような空の色。
日向で撫でられる猫のような気持ちになる。
「あー…ホントいい天気。空も真っ青だし、風も気持ちいいし…。お前がいるし
 …。」
そこまで呟いて、ナルトはふいに思いついたように言った。
「今日はさ、のんびりしよっか。何処にも行かないでさ、二人だけで。」
「いいのか?何か予定があったんじゃないのか?」
いきなりあげられたナルトの提案に戸惑ったように我愛羅は首を傾けるのに、ナ
 ルトは笑って首をふった。
「いいの!たまにはさ、こういう時間もいいじゃんか。なあ、腹へってねえ?」
「少し、空いたな」
顔を覗き込むようにして楽しげに問われて、我愛羅は笑みをふくんだため息をひ
 とつつき、うなずく。それを見てナルトはヨッと掛け声をかけて、ずっともたれ
 ていた手すりから身を起こして軽やかに言った
「じゃあ、オレが腕によりをかけて、うまいラーメン作るってばよ!!」
「また、ラーメンか。」
「∑え?だめ?」
グッとコブシを握ってポーズをとったナルトにぼそりとわざとそう言うと、ナル
 トは分りやすく眉をさげる。間を開けずに我愛羅は笑って告げた。
「別に嫌じゃない。」
それだけでほっとしたようにナルトの表情が緩んだ。
「んー…、なら夜はさあ、一緒になんか別のもん作ろうってば。お前がすきなや
 つ。そしたらアイコだろ?」
なあ?と同意を求めてくる声に、我愛羅もゆっくりと手すりから身を起こす。
「他には?なにをするんだ?」
言外の承諾をふくんだ問いかけに、ナルトはにっと笑って両腕をのばした。
「だから、のんびりすんの。こんなことしたりして。」
「!!」
ぎゅうっと抱きしめて、日に焼けていない白いうなじに唇を落とすとびくりと腕
 の中で彼の身体がすくむ。
「へへっ…。もうお前ってば可愛すぎ。」
「うるさい…」
耳元に吹き込んだ声でうっすらと耳を赤くして、悔しげにうめいた彼の頬に、も
 ういちどキスを落としてから、ナルトはそっと腕をほどいて、大きく伸びをした。
「さて、じゃあ、飯でも作りますか。我愛羅、お前、残ってる仕事やっちゃえよ
 。どうせ、持たされてきてんだろ?」
部屋へと続く網戸を開けながらそういうと、我愛羅は少し驚いたような顔をした。
「よくわかったな。」
「そりゃあ、最愛の恋人のことですから。」
おどけて言うと我愛羅がふっと柔らかく表情をなごませる。
「…まあ、いい。じゃあ、甘えさせてもらう。」
「ん。がんばれよ。早く終わらせろよ?午後からは本格的にのんびりするんだからさあ。」
「ああ、わかった。」
「よし!あー、もう、ホントにいい天気だな…」
部屋に上がりながら見上げた空の色は青。眩しい光に目を細める。
「本当にそうだな。」
触れるほど近くにある最愛の体温。手すりに預けられた薄い肩に手を伸ばす。
目と目があって、引き寄せられるみたいにチュっと軽いキスをした。
空を見上げる。どこまでも澄み渡る青。
もし、明日死ぬのならこんな風に晴れてたらいい。
そして、隣にお前がいたらいい。
それだけでいい。
青い空に吸い込まれるように。
顔を見合わせて笑う。
今日は死ぬのにとてもいい日だ。
 
                   Fin
 
 
 
 

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2015/09/06 23:56 | Comments(0) | お話
ナル我の日なので…。
もう少し長いのを用意していたんですが、上手くfinがつかなかったのでふんわり日常風小ネタを
UPします。用意してたのは、別の日に出しますー…。






すいーつ。



菓子に手をつけないまま一緒に出された茶だけをすすっていると、お前、ほんと甘いの食くわないよな。と、いっそ感心したようにナルトが言った。進んで食べようと思わないだけだ、と、返せば好き嫌いしてっと、大きくなれねーってばよ、と鬼の首でもとったように得意げに笑われた。甘いものは成長とたいして関わりはないと思う。それでもその晴れやかな笑顔に何故か何も言えなくなった。押し黙ってしまった俺に、ナルトは少し笑みをおさめて、それ、と俺の前に置かれた菓子を指差した。それ、甘くねーお菓子だってばよ?、思わず、ひとつ瞬いた。お前の分、カレー味。はんぶんこしねえ?イタズラを成功させたような顔で、ナルトは笑う。それから、自分の分と俺の分の菓子を二つに割って入れ替えた。


甘いの食ってからカレーの食べたらいいってば。おまえ、甘いのが口に残るのが苦手なんだよなー。得意げな声を聞きながら、そんなこと言ったことがあったか?と問う俺に、そんなのみてりゃわかるってばよ、と、ナルトは、ひどく優しい空色の目でそう言った。




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2015/09/01 23:06 | Comments(0) | 小ネタ
ツキノヒカリ

遠くに月が見えた。


青い色に染まった砂漠が、同じ色の空と境目を曖昧にしている。


いつも変わらない風景だ。


何もかも沈んでいくような青い景色。


切り立つ崖の端に座り、我愛羅は何をするわけでもなく、ただ、どこまでも続く砂地に視線を投げた。


月が明るい夜にはここに来る。


監視付きの慣れきった重苦しい空気に満たされた部屋を抜け出すのは、何かに耐え切れなくなるからだ。体の奥から滲み出す衝動。


それでもここに来れば、澱みの無い冷えた空気に感覚が冴え冴えとして、息苦しさが少しだけマシになるような気がした。


風は少し冷たかった。


止まない風の音はやはりいつもと何一つ変わりなく、砂混じりに吹き抜けていく。


頬をかすめて吹き抜ける風に目を眇めて、我愛羅は月に手を翳した。


逆光に影が深く、輪郭を青白く照らすそれが、この場所を現実から切り離す。


冷え始めた手足など気にならなかった。


この場所はとても静かで、風の音に耳を傾けていれば、このまま消えていけるような気さえした。

ゆっくりと目を閉じる。

眠れるわけではなかったがそれでも、青い空気に少しだけ冷え切った精神が凪いでいた。


ふいに、さらさらと鳴るばかりだった砂交じりの風の音に僅かな異音を感じて、我愛羅はぴくりと耳をそばだてた。

待ち望んでいた違和感が我愛羅を現実に引き戻す。

砂地に向けて手を翳し、少しだけ意識を集中する。自分の周りを取り巻く砂に、意思が染みとおるように。


まるで、懐いてくるように砂がその手に纏わりつく。


慣れ親しんだ感触は、必要な情報を音も無く伝えた。


10m先にひとり。


そうか、と口の中で呟いて、振り向くことなく気配を探る。


ちりちりと、向けられる巧妙に隠された殺気。


向けられる殺気はそれなりに練られたもの。そこそこの使い手だろうとあたりをつける。


これなら、少しは感じられそうだと我愛羅は声を立てずに笑った。


視線を砂漠にやる。気配を殺し過ぎないように気をつける。


気がついていることがばれたら興ざめだ。


こちらからわかり易く迎えなくても、そう間を置かず距離をつめてくるだろう。


それから、ゆっくり考えればいい。


どうやって、壊すかを。


ざり、と砂を踏みこむ音がした。おそらく普通なら聞き取れないほどの小さな音。


それでも、異質なその音は、わかりやすく我愛羅の鼓膜をふるわせた。


完全に気配を消したつもりでいるのが滑稽だった。


とっくに気付かれていることにも気付かない鈍さが、いっそ哀れみを誘う。


この場所を選んだ瞬間から、とっくにこの手の中に落ちているのに。


軽く砂を蹴る音がして、一瞬で気配が近づく。


我愛羅はすうっと口の端をつりあげた。


銀線が閃くのが視界の端を掠め、意識するよりも先に砂が舞い上がる。


遅い。


キンッという軽い音を立てて、あっさりと銀線は弾き返された。


刺客が驚いたように目を見張る。


死角を突いたはずなのに、と。その一瞬の迷いが小さな、それでも明確な隙を生む。


盾のように我愛羅を取り巻いていた砂は、そのまま風を切り、それを絡め取るようにして使い手を取り巻いた。

距離をとるために後ろに飛びながら、とっさに引き絞るように指を動かして、背後から回り、心臓を貫くはずの銀線も、悲鳴のような金属音をさせて絡みついた砂に砕かれた。


青い月明かりに反射して、砕けたそれがきらきらと光る。


ありえない光景に刺客は息をのんだ。


絡みつくように自らを覆おうとする砂に刺客は悲鳴をあげた。

ようやく自分が何を相手にしているのかを気付いたのだ。

一見どう見てもただの幼い子供にしか見えないそれは。


「バケモノ!!」


耳慣れたそれを聞き、我愛羅は捕えられ、恐怖に顔を引き攣らせる獲物を見た。


「そうだ。」


知らなかったのか?とでもいいたげな感情のこもらないただの事実を告げるだけの声で我愛羅はと捕えたそれに言った。

終わりを宣告する、空っぽに光る淡い硝子玉のような目にそれは声を失う。


ぐっと差し出した手を握る。


ぐしゃり、と湿った音を立てて、砂が赤く濡れる。


あまりにそれは簡単だ。


退屈な、ほどに。


わかるのは、たった今奪ったそれよりも、少なくとも自分のほうがこの世界にとって意味があるのだということ。


意味が無いものに、意味があるものを壊せるはずがないのだから。


小さく笑う。


また、自分は許されたのだ。この世界に存在することを。


自分の中のアレと共に。


まだ、自分には価値がある。存在する、意味が、ある。


我愛羅は、さえざえと、青い青い夜の空を見上げた。


ぽっかりと穴が開いたように白い月が見えた。


この場所を満たす、生臭い錆びた臭い。


緩やかに満ちる安心感と、我愛羅は静かに歩き出した。


ざりざりと飛沫いた残骸を踏みながら、ふと思う。


存在を許すものとは、何なのだろう。


この世界に拒絶された自分を生かすものは何なのだろう。


今夜も壊されたのは自分ではなく。


この世界に赦されているはずの誰かで。


ならば、自分の存在を赦すものとは、いったい何なのだろうと。


父でなく、里でもなく。


他に総べるものが思いつかなくて我愛羅は僅かに逡巡した。


さらり、と入り込みかけた思考を中断させるように砂が頬を撫でる。


「ああ、そうだな。」


そんなものは関係ないのだ。


自分は、生きるために生きるだけ。


自分以外の全てを壊しながら。


それこそが自分の存在を証明するものだから。


世界はそのために自分を生み出したのかもしれない。


いらない誰かを消し去るために。


いつか、自分が要らなくなったなら、誰かが自分を壊すのだろう。


ただ、それだけの、ことなのだ。


頬を、髪を撫でる感触に目を眇めながら、我愛羅はもう一度空を見上げた。


月の光は何もかもを同じに青く照らして、けれども何を与えるわけでもない。


それでも、少しばかり、心が和ぐ。


自分も、アレもヒトも本当は生きてなどいないのかもしれない。


唐突に我愛羅は思った。


解らないなにかの、理解できない思惑によってただ、存在させられているだけなのかもしれない、と。


それ以外に術も無く、全てのものが公平に。まるで月の光のように。


ならば、それが許す限り存在するしかないのだ。


この、場所で。誰もが同じように。所詮、ただ、そこに在るだけ。


いつか無くなるその時まで。


青い青い光に照らされながら、我愛羅は何処までも歩いた。


どこか、満たされたような気持ちで歩いた。


 


 


                                                                         fin

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2015/08/22 00:36 | Comments(0) | お話
花火
新作ですが、原作無視の完全捏造です。パラレルです。
それでもよろしければどうぞー(=゚ω゚)ノ
夏祭りのお話です。


拍手[3回]


2015/08/13 00:23 | Comments(0) | お話

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