砂の里にて
何処に行く?とお前から聞いてきたのが嬉しくて、声をたてて笑ったら、お前はちょっとだけ不思議そうな顔をしてから、ふっと口元を和ませた。
「お前はいつも笑っているな。」
「ん?そうかー?」
そんな風にとぼけてみたけれど、本当はちゃんと自覚してる。
だって、お前といるとどんなことでも楽しくて仕方がない。
こうやって、並んで歩いているだけでも、いつもとはまるで違うから。
お前が、他の誰にも見せないような表情を、オレの前ではひっそりと見せてくれるから。
そうして、それにオレが気付けるから。
「で、何処に行く?」
「んー…じゃあさ、じゃあさあ。お前が一番好きなところに行きたいってばよ!!」
そんな風に答えたらお前は、眉間に皺を寄せて黙り込む。
そうして、しばらく考え込んでからちいさく呟いた。
「夜…」
「ん?」
「…夜になったら。」
「よる?」
「夜じゃないと意味が無いんだ。」
「…ふうん?」
その意味は図りかねたけれど、とりあえず頷いて、少し困ったような顔をしているお前にぱっと笑って見せた。
「じゃあさあ、それまでお前のうちに行きたいってば。」
「家?」
「そ!だって、オレ、お前の部屋って見たことないし!!お前だけオレの部屋を知ってるっていうのも不公平だろー?」
冗談めかしていうと、どっちにしろ今日は泊まるんだろうと言いながらも我愛羅が小さく笑った。なんというか、いいなって思った。
こういうのがいい。ずっとこんな風な時間が続いたら良いのにって思った。
風影邸に向かう道を並んで歩く。時々並んでいる店なんかを冷やかしながら。
ふっと隣を見ると我愛羅が穏やかな目でオレと同じものを見ていて、そのことに、ちょっとどきっとした。
「なあ、があら。」
「なんだ?」
呼びかければ淡い淡い緑の目がまっすぐオレを見て。
それに、オレは自分ができる最高の笑顔を向ける。
そっと耳元に顔を寄せた。
「オレさ、お前と居るときが一番楽しい。」
顔を覗き込んだら、すうっと目をそらされた。でもさあ、無表情のまんまでも赤くなった耳がみえてる。ちょっとかわいそうだから、気付かない振りをして、沸きあがってくる笑いをこらえた。
夜がすっごい楽しみだなーって黙ったまま少し前を歩くお前のまだ赤い耳を横目で見ながら思った。
家に着くまであと少し。
夜まではまだ少し時間がある。
お前はオレを何処に連れて行くんだろ?
ちょっとずつ知っていくお前のこと全部が愛しくて仕方がなかった。
Fin