忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/04/26 14:46 |
風呂上がり
「髪乾かしてやるよ」
そう言って、手にしたドライヤーを軽く上げて笑ってみせると、我愛羅は、面倒そうな顔をして、それでも特に抵抗することもなく、ソファに座った俺の所まで寄ってきて、両膝の間にぽすりと座った。
「すぐに乾く」
「俺がやりたいの」
見上げてくる顔の不服げに尖った唇に、逆さにちゅーして、ぽたぽた雫を垂らす髪を、横にあった洗濯物の山から選り出したタオルで丁寧に拭いてやってから、ドライヤーのスイッチを入れた。柔らかい風を当てながら湿った猫毛を掻き回すと、さっきまで嫌そうだったくせに気持ちよさそうに目を閉じて、足にもたれかかってくるのが甘ったれの猫みたいでかわいい。
そんなこと言ったら二度とさせてくれなくなりそうだから絶対言わねえけど。
丁寧にしても、割とすぐに乾いちゃうふわっと柔らかい手触りの髪をはい終わり、ってくしゃってなでて、ドライヤーの電源をパチンって切った。
名残惜しげに見上げてくる目にちょっとわらう。
「な、きもちよかった?」
「……ああ」
決まり悪そうな顔で目をそらして、でもちゃんと返事してくれるのが嬉しくて、つい笑崩れてしまう。
「またしてやるってば」
顔を覗き込むように、甘い気持ちがだだ漏れた声で告げると、考える様な少しの間の後、するりと我愛羅の左手が、羽織ってたパーカーのえりを掴んで、何?って聞く間もなく引き寄せられた。
返事の代わりの様にぺろりと唇に触れた薄い舌の感触にぎゅっとなる。
「おまえ、ほんと、猫みたい。」
なんとなく負け惜しみみたく呟きながら、するっと耳元から顎先まで撫でると、我愛羅はふ、と表情を緩めて、俺の手から逃げるように立ち上がった。
涼しい無表情に見えるけど、目がちょっと笑ってる。
コイツのこういう顔、ほんと、キレーだなーってつい、見とれてたら伸びてきた白い手にくしゃりと髪をなでられた。
その手が優しくて、どうしようもなくすきだなーって胸の底がじわっとあったかくなる。
たったこれだけのことなのにな。本当に不思議。
それが好きってことなんだって言っちゃったらそれまでなんだけど。
余計なとこまで熱くなっちゃいそう、なんて。
「お前も早く入ってこい」
思いついたように我愛羅がそう言って、撫でた手で、促すように俺の頭を軽く小突く。
さらりといい捨てた言葉に含まれた意味はちょっと我愛羅らしくないくらい明白だ。
際限なく湧いてくる愛しさと欲を、伏せた顔の陰で、ひっそりとした笑みの形で軽く逃がした。せっかくお互い上がってるのに、がっついちゃうのはもったいない。
「んー、わかったってば。すぐ出るから待っててな。」
風呂場に向かおうと立ち上がりながら、言外にいろいろ含ませたニヤニヤ笑いをつくって、顔をのぞき込むと、我愛羅は、大きな目を一度瞬かせて、それから鼻先が触れるような距離で、ふわりと笑った。その顔があんまり綺麗で思わず息を呑む。
「部屋で待ってる」
囁くような吐息混じりの声でそう言って、オレの肩をトン、と押して寝室に入っていった。後にはリビングに取り残されたオレ一人。
「あーもう…、やっばい……」
好きで好きで大好きで、きっかけなんかもうずいぶん遠くに行っちゃったけど、見るたび、話すたび、触れるたんびに落ちてくみたいに好きになる。全部自分のもんにしたくなっちゃう。
じゃれあいみたいな駆け引きで、それが一方的な気持ちじゃないって、直接的な言葉じゃなくても、あいつが形にして伝えてくれるようになったってこと。
「……ッし!さっさと入っちまお。」
部屋で、どんな顔して待ってんだか。たぶん、平然とした顔で持ってきた書類の類か小難しい本でもめくってるんだろうけど,
そういうあたりまえみたいな空気がオレが一番ほしかったものだったって、あいつは気づいているのかな。
廻った思考に目を細めて、ふっと吐いた息に幸せな笑みがにじむのを感じながら、オレは浴室のドアを開けた。
                            fin

拍手[6回]

PR

2015/11/04 19:16 | Comments(0) | お話

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<リトル・グッバイ | HOME | 10月9日の夜に>>
忍者ブログ[PR]