忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/03 18:54 |
いつか何処かへ還る日に。

その日はとても天気が良かった。
久々に得た二人だけの休日。何をするのかは、まだ決めていない。
窓から見える、鮮やかな青に染め上げられた作り物めいた空に誘われるように、
 この家に着いたばかりの我愛羅と二人、ベランダに出た。
吹き抜ける風気持ちが良くて目を細める。降り注ぐ金色の光が眩しい。
細い手すりに凭れて空を見上げた。我愛羅は両腕を乗せるみたいにして、ナルト
 は背中を付けるみたいにして。
持ち出したサイダーを入れたグラスがパチパチと涼しげな音を立てていた。そん
 な音が聞こえるくらい静かだった。
びっしりとついた水滴がグラスを持つ指を濡らす。
音を立てる細かな丸い気泡ごと飲み込むようにナルトはグラスに口をつけた。
馴染んだ刺激がのどを滑り落ちていく。隣で我愛羅も同じようにグラスに口をつ
 けていた。
二人で過ごす時間は、いつもどこか空間を切り離されたようにとても静かだ。
言葉が、あっても無くとも。
そんなことをぼんやりと考えながら、白い横顔を伺えば、我愛羅は、手すりに乗
 せた腕に体重を預けるようにして、空を見上げたままで不意に口を開いた。
「明日、死ぬとわかったらお前は今日何をする?」
「お前、突然何言い出すんだってばよ。」
唐突に投げかけられた、不吉な問いにナルトは顔をしかめた。その様子を見て我
 愛羅はわずかに口の端を上げる。
からり、とグラスの中で氷が鳴った。
「この間テマリが何かの本を読んで言っていたのを思い出した。」
そう言う表情が少し楽しげに見えて、ナルトは表情を緩め、続きを促す。彼が楽
 しそうだと、自分の気持ちまで浮き立つ。声が軽く弾んだのがわかった。
「ふうん。姉ちゃんは何て?」
「何が何でも奈良の所に押しかけるそうだ。」
「へえ、姉ちゃんらしいな。」
それを言うテマリのきっぱりとした姿が容易に思い浮かんで、ナルトは口の端を
 上げた。
「その瞬間まで、少しでも近くに居たいと言っていた。たとえ、行き着けなくて
 も。」
「そう、だな。なんか、わかるってばよ。」
そのきもちはわかる。きっと自分もそうするだろうな、とナルトはおもう。きっ
 と、我愛羅も同じことを思ったのだろう。それを言う我愛羅の目はやさしく細め
 られていたから。
「で、お前はどうするんだ?」
我愛羅は笑みをひっこめて、真面目な顔で初めの話題を引き戻す。
「え?んー…明日、だろ?なら、いつも通りに過ごしたいってば。」
問いかけに、少し考えて、すぐに出た答えを口にした。いつも思っていることだ
 から。
「………」
微妙な顔で見つめ返してくる大きな目に苦笑しながら補足する。
「いや、だって、今お前はここにいるだろ。居なかったら、とりあえず砂の里に
 向かうけどさ、お前がここにいるなら…」
一度言葉を切って、風が揺らすその髪に触れて、ナルトはやさしく笑って続けた。
「お前といつも通りに過ごしてえよ?一緒に寝て、起きて、飯食ってさ、色んな
 こと話して、ちょっと買い物とか散歩とかに出かけたりして、抱きしめたり、キ
 スしたり、セックスして、別に特別なことなんかいらねえから、そんな風にいつ
 もみたいに過ごしたいってば。」
ごく普通に二人で過ごすこと。特別なことなんかよりずっといいと思う。
まるで、あたりまえみたいに、そうしていたいと思った。
実際のところ、一緒に居ることそのものが特別のようなものだけど。
「そう、か…」
納得したのと同時に、照れたようにそらされた目線を追う。
赤く染まった耳がかわいくて。
だから、余計に聞きたくなった。我愛羅の答え。
「なあ、おまえは?」
「ん?」
軽い調子で問いかければ、そらされた目線が戻ってくる。
「お前はどうすんの?何したい?」
まっすぐに向けられる目線をそのまま受け止めて、問いかけを重ねた。
「それくらい言わなくてもわかるだろう?」
「オレは・お前の・言葉で・聞きたいの。ほら、言って言って!!」
軽く首をかしげて、我愛羅は何で今更そんなことを聞くんだとでも言いたげな顔
 で問いを交わそうとするのを許さずにナルトはねだるようにだめ押した。
何がなんでも聞きたい、という気持ちをこめて、その目を覗き込めば、我愛羅は
 居心地悪げに視線をそらす。
それから、少しの間をおいて、ぽつん、と言った。
「お前と一緒にいる。」
「何よ。それだけー??」
簡潔な言葉が物足りなくて、ナルトは口をとがらすと、視線をナルトに戻した彼
 は、しごく真面目な表情で静かに続けた。
「……お前が居ればいいんだ。どこでも、何をしても。最期にこの目に映るのが
 お前なら、それでいい。」
その声が、あんまりにも真摯で、透明で、鼓膜さえも通さずに直接胸に刺さるよ
 うな感じがして、ナルトは不意に訪れた痛みを堪えるようにぐっと息をのんだ。
「………なんか、すごい嬉しいけど、なんかすごい負けた気がするってばよ…。」
ちょっと情けない声を出すと我愛羅が小さく笑う。
「こんなことに勝ち負けがあるか。」
「んー…まあ、そうなんだけど。…ま、いいか。オレもお前が居ればいいんだか
 ら、同じ気持ちってことだよな!!ん、両思い。いい感じ。」
「………」
正直、嬉しいのと悔しいのが交じり合ったような複雑な内心を前向き思考で押し
 流して、けろりとそう言えば、我愛羅はその切り替えの早さに呆れたような顔で
 ナルトを見た。
その表情が不満でナルトは口を尖らせる。
「なんだよ、その顔。」
「いや、別に。」
幼い子供を見るような眼差しに、ナルトはわざとらしく大きなため息をついてか
 ら、手すりに突いた腕に頬を預けてぼやいた。
「またオレのこと単純だとか思ってただろ…いいけどさあ。そのとおりだし。で
 もさ、そういうことだろ?一緒に居るって、どっちか片方がそうしたいって思っ
 たって出来ることじゃないもんな。だから、同じ気持ちってのはすっげ大事なこ
 となんだって、オレはおもうよ。ずっと一緒ってのは無理でも、最期は同じ気持
 ちでいてえよ?少しでも近くでさ。でもほんと、最期に見る顔がお前だったらい
 いな。こんな風ないい天気の日で、最期まで、お前と笑えたらいいよな。」
俯きがちに漏らした本音は自分でも驚くほど真摯な響きを帯びた。それが照れく
 さくて誤魔化すようにナルトが笑うと、我愛羅はとても静かな表情でぽつり、と
 同意した。
「そうだな……。」
また、一口サイダーを口に含む。青い空を映したグラスの中のソーダ水もきらき
 らと何処までも青く青く見えた。滴るほどの水滴が指を濡らすのも涼しく、気持
 ちが良いほど強い日差し。吸い込まれるような空の色。
日向で撫でられる猫のような気持ちになる。
「あー…ホントいい天気。空も真っ青だし、風も気持ちいいし…。お前がいるし
 …。」
そこまで呟いて、ナルトはふいに思いついたように言った。
「今日はさ、のんびりしよっか。何処にも行かないでさ、二人だけで。」
「いいのか?何か予定があったんじゃないのか?」
いきなりあげられたナルトの提案に戸惑ったように我愛羅は首を傾けるのに、ナ
 ルトは笑って首をふった。
「いいの!たまにはさ、こういう時間もいいじゃんか。なあ、腹へってねえ?」
「少し、空いたな」
顔を覗き込むようにして楽しげに問われて、我愛羅は笑みをふくんだため息をひ
 とつつき、うなずく。それを見てナルトはヨッと掛け声をかけて、ずっともたれ
 ていた手すりから身を起こして軽やかに言った
「じゃあ、オレが腕によりをかけて、うまいラーメン作るってばよ!!」
「また、ラーメンか。」
「∑え?だめ?」
グッとコブシを握ってポーズをとったナルトにぼそりとわざとそう言うと、ナル
 トは分りやすく眉をさげる。間を開けずに我愛羅は笑って告げた。
「別に嫌じゃない。」
それだけでほっとしたようにナルトの表情が緩んだ。
「んー…、なら夜はさあ、一緒になんか別のもん作ろうってば。お前がすきなや
 つ。そしたらアイコだろ?」
なあ?と同意を求めてくる声に、我愛羅もゆっくりと手すりから身を起こす。
「他には?なにをするんだ?」
言外の承諾をふくんだ問いかけに、ナルトはにっと笑って両腕をのばした。
「だから、のんびりすんの。こんなことしたりして。」
「!!」
ぎゅうっと抱きしめて、日に焼けていない白いうなじに唇を落とすとびくりと腕
 の中で彼の身体がすくむ。
「へへっ…。もうお前ってば可愛すぎ。」
「うるさい…」
耳元に吹き込んだ声でうっすらと耳を赤くして、悔しげにうめいた彼の頬に、も
 ういちどキスを落としてから、ナルトはそっと腕をほどいて、大きく伸びをした。
「さて、じゃあ、飯でも作りますか。我愛羅、お前、残ってる仕事やっちゃえよ
 。どうせ、持たされてきてんだろ?」
部屋へと続く網戸を開けながらそういうと、我愛羅は少し驚いたような顔をした。
「よくわかったな。」
「そりゃあ、最愛の恋人のことですから。」
おどけて言うと我愛羅がふっと柔らかく表情をなごませる。
「…まあ、いい。じゃあ、甘えさせてもらう。」
「ん。がんばれよ。早く終わらせろよ?午後からは本格的にのんびりするんだからさあ。」
「ああ、わかった。」
「よし!あー、もう、ホントにいい天気だな…」
部屋に上がりながら見上げた空の色は青。眩しい光に目を細める。
「本当にそうだな。」
触れるほど近くにある最愛の体温。手すりに預けられた薄い肩に手を伸ばす。
目と目があって、引き寄せられるみたいにチュっと軽いキスをした。
空を見上げる。どこまでも澄み渡る青。
もし、明日死ぬのならこんな風に晴れてたらいい。
そして、隣にお前がいたらいい。
それだけでいい。
青い空に吸い込まれるように。
顔を見合わせて笑う。
今日は死ぬのにとてもいい日だ。
 
                   Fin
 
 
 
 

拍手[4回]

PR

2015/09/06 23:56 | Comments(0) | お話

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<ナル我のススメ サンプル | HOME | ナル我の日なので…。>>
忍者ブログ[PR]