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2024/04/27 15:09 |
花火
新作ですが、原作無視の完全捏造です。パラレルです。
それでもよろしければどうぞー(=゚ω゚)ノ
夏祭りのお話です。







花火

 
「あ、」
人込みをかき分けるように屋台を冷やかしながら歩いている時、ふいにチカリと眼の端に光るものが掠めた。
「どうしたんだ?」
「や、うん、なんでもないってば」
きょとんと見上げて来た大きな目はオレの視線を追って屋台へ向かう。ちょっと決まりが悪くなってヘラリと笑って細い腕をとる。
「まじ何でもないから。それよかオレってば腹減っちゃった」
ちょっと大げさめの笑顔でそんな風にいいながら、大きな目を覗き込めば、我愛羅は小さく肩をすくめて頷いてくれた。食べる系の屋台の方に向かいながら、目線が未練がましくさっきの場所に向かいそうになるの、留めるように前をいく背中を追う足を速めた。


さんざん二人で飲み食いしたあと(といってもほとんど食ったのは俺だけど)ここよりもむしろ家の方が花火が見えるってことになって、杏飴や氷に乗っていた水飴や、食べかけの焼きそばなんかを手に家に帰った。帰る途中で一度我愛羅が、買いたいものがあると言ってオレから離れて、買ってきたのが割りばしを刺した水飴だったのが意外で思わず笑ったら、我愛羅は不満そうに顔をしかめてあいつが好きだったんだと言い訳のように言って、散々こねまわして白っぽくなったそれを口に入れた。
半分渡してくれたのを口に入れながら、ちょっと意外って正直に言うと、我愛羅は懐かしい記憶を愛惜しむような柔らかい顔をした。
「今も会うの?」
「たまにな」
あのでっかい砂狸がどんな顔して水飴を喜んでるのか想像するとまじ笑えるけど、それなりにうまくやってるらしいのが伺えてなんだかほほえましいなとか思った。
ベランダで手すりにもたれながらビール片手に花火を待つ。肩が触れるほど近くに我愛羅がいて一緒に空を見上げてる。遠くのスピーカーから流れる切れ切れの祭り囃しが止まった。
ひゅうと長く尾を引く音と共に一つ目の花火が上がる。空を見上げる我愛羅を見た。
待ちわびた音も無く咲く光の花が、我愛羅の整った横顔を一瞬白く照らして、消える。
どぉん、と大きな腹に響くような音が、後を追うように空気が震わせた。
連続して上がる光に声も無く二人で見入る。毎年見ているはずなのに、何度でも同じように黙り込んじゃうのは何でなんだろう。遠くの歓声を聞きながら、そっと隣を見れば、伝心したみたいに我愛羅も俺の方をみてた。何?と聞こうとした時また音が響く。断続的な音と光のはざまで我愛羅の口が動いて、俺を呼んだのは解った。だから、音に負けないように顔を寄せて、少し声を張る。
「な・に?」
問う声に我愛羅は目を伏せて、そっと俺の手に触れた。促されて開いた手のひらにコロンと乗せられたのは、
「…これ」
「見ていただろう?」
少し緊張してるのか、我愛羅はかすかに強張った声でぽつりと言った。
手のひらには、玩具の指輪。我愛羅の瞳にそっくりな淡い翡翠色の色硝子がはまっている。
心臓を掴まれたように息がつまって黙り込んだ俺に、我愛羅は少し不安げに首をかしげた。
「違った、か?」
落胆したようにこぼれた小さな呟きと、落ちた肩に、俺は大慌てで首をふった。
「違う!ちげえの!!、欲しいなって思った奴だったからさ、びっくりして……つーか、何でわかったの?」
「目で追っていただろう?」
逆に不思議そうに聞き返されちゃ、言葉も無い。嬉しさと気恥ずかしさに耳が熱い。思わず片手で顔を覆う。なんで、俺がこんなものを欲しがったのかには気がついてなさそうな所が、せめてもの救い、なのか?
でも、それが手に入ったことより何より、我愛羅が俺のことを見て、俺を喜ばせてくれようとして、それを買ってきてくれたことがたとえようも無く嬉しかったんだ。我愛羅が俺のことをいつも、俺とちゃんと向き合ってくれているのは解ってたけど、それでも、それを形としてこの手の中に落とし込んでくれたことが。
一杯になった胸が嬉しいのに張り裂けそうで、泣きたくないのに涙が出そうで、どんだけ言葉を繋げても、この気持ちを伝えることなんかできそうにもなくて、だから、絞り出すような声でさんきゅなって大事にするって言った。
我愛羅は綺麗な目をゆっくりと瞬かせて、それからほっとしたようにうなずいてくれた。
それに笑い返した所で、あ、と思う。
「ちょっと…ちょっとまってて。」
駆け足で部屋に戻って、ガラクタだらけの引き出しの中を引っかきまわして奥の方ですっかり忘れ去っていた和紙を張った小さな箱を見つける。
「あった…」
それを握り締めて我愛羅の所へ大急ぎで取って返す。我愛羅は俺の急な行動に少し唖然としながらも、仕方がないなって感じに首をかしげて俺の握っている小箱を見た。
「それは…?」
「うん」
差し出すようにした手のひらの上に乗せた箱の蓋を開く。
入っているのは我愛羅が買ってくれたのと対の様な玩具の指輪だ。
鮮やかな空色の硝子の。
我愛羅は大きな目を瞬かせて俺の顔を見る。
それにちょっと笑って見せながら、箱から取り出したそれを我愛羅の手のひらに乗せた。
「これさ、母ちゃんの形見なんだってさ」
青い硝子の部分をつつく。三代目のじーちゃんが、大昔にくれた箱の中に入ってた父ちゃんと俺の目と同じ色のそれ。
俺と母ちゃんはたぶん本当に笑っちゃうほど似てる。
母ちゃんがこれを手に入れた経緯まで簡単に想像できて、だからこそ思った。
「これはお前が持っててくれってばよ。お前がくれたやつと交換。」
「ナルト」
「俺が持ってて欲しいの」
あわてたように返そうとするのを押しとどめて、戸惑った顔で見上げてくる目にきっぱりと言う。
たかが玩具の指輪だけど、対のそれが抱いている意味ごと。
だから、固まったみたいに止まってる我愛羅の手をとって、その薬指にはめてやった。
我愛羅はしばらくその指輪をじっと見つめてから、すごく静かな声で呟くみたいに大事にするって言ってくれた。
包み込むようにその手を撫でて放すと、ほっとした気持ちを誤魔化すみたいに、大げさに笑って言った。
「な、俺にははめてくれねえの」
差し出した左手に我愛羅は、真顔でさっきの指輪をはめてくれた。
さすがに俺には小さくて、第二関節の所で止まっちゃったけど。
「カンクロウなら綺麗に直すと思うが…」
「いいんだってば。これはこのまんまで。」
困り顔にちょこんとキスをして、オレは指輪をとりあえずお守りの袋の中に入れた。
花火はまだ上がっていて、硝子越しに二人で眺める。まだ我愛羅の指にはまったままの指輪にこっそり目を落とす。
ちゃちな玩具の指輪は、あんまり似合ってなくて、それでも、我愛羅の手の中にそれが収まっているのが嬉しかった。
でも。
いつか、こんなおもちゃじゃなくて、一生もののをその指にはめてやれたらなって思った。


 

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2015/08/13 00:23 | Comments(0) | お話

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