お前の声がする。残響のようにいつも耳の奥でなっている。
お前の声が聞こえているうちは大丈夫だと、いつも、自分にそう言い聞かせる。
正気を保たなくてはいけない。
ざわめく背後の声をごまかすために、お前の名前を呼んだ。
繰り返し、声にはせずに。
お前を思い出せるうちは大丈夫。大丈夫。大丈夫…。
何度も、そう言い聞かせながら、日々をやり過ごす。
大丈夫、オレはちゃんとオレでいられる。
怒るな、疑うな。今はすべきことをすればいい。
力を自分のために使うな。それはオレ自身のものじゃないのだから。
眠らない夜はなれている。
なら、その時間を無駄にするな。オレには普通の人間より時間がある。
それを喜べ。
からっぽのオレの世界に、今はお前がいるから、遠くに光が見える気がした。
たとえ、それが幻想だとしても夢を見るくらいなら自由だ。
(絶望と希望は混在する。それでも何もないよりずっといい。)
向かい合う人の顔に昔の表情が透けている。
見えない振りをするために繰り返し残響に耳を澄ました。
まるで縋り付くように。いつも。なんどでも。
壊してきたものは戻ることは無い。
分かっている。
繰り返し思い知らされる現実は見据えなければいけない。
重ねた罪は贖おう。誰のせいにもせずに。
あせってはいけない。わかっている、痛みは永遠に終わることなど無いことも。
けれど、遠くに光がみえている。(気がする。たとえ幻覚だとしても)
大丈夫。オレは正気だ。
大丈夫。オレは、ちゃんとヒトでいられるから。
お前が存在しているかぎり。何があっても。
石を積むように、オレはただ積み重ねている。
お前の名前と、現実を。
いつか、もう一度会う日のために。
耳の奥の残響は消えない。オレはひとりじゃない。
Fin
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