木の葉の里の七夕祭りはどういう由来があるのかは分からないけど、とにかく盛大で里を上げての一大イベントで、毎年七月の六日から七日まで里の中はあちこちに笹飾りが出たり屋台が並んだりしてすごく賑やかになる。
アカデミーの前にも見上げるほど大きな笹が置かれて、里の奴総出で願い事を書いた短冊を下げていく。
家族とか仲間とか、恋人とかと一緒に行くのが定番で、同じ枝につけると絆が深まるとか、好きな人の短
元々、手習いの上達を願う祭りだからってことかもだけど、アカデミーに通っている時に、短冊に願い事という形で自分を見つめ直し成し遂げるべき事を考え、決意を新たにして臨むのだとか、説教くさいことを教
確かに、我愛羅に七夕を見せたいがなかなか難しいとボヤいた覚えはある。
俺はまた彼女に恩をうられたぞ、と肩をすくめた我愛羅の顔は柔らかく笑っていたから、それなら一緒にばあちゃんが喜ぶこと考えような、と笑って答えた。
ついでみたいに見事に晴れた七夕当日、オレに与えられたのはお忍びで来られた風影様の護衛と案内という任務で、至れり尽くせりの状況に若干のばつの悪さは二人で笑って、せっかくの好意をありがたく受け取った。
こんなんでいいのかなって思わなくはないけど、それでもやっぱり嬉しい。
もらった嬉しさはあとできっちり返したいなーってこういうことがあるたんび思う。
貰うばっかじゃなくってさ、いつかはこっちからあげる側になりてぇなって最近はよく思うんだけどなかなか難しい。
まあ、そういうわけで、今日は一日たっぷりと七夕デートを楽しむことができたのだった。
七夕を知らないという我愛羅に分かる範囲で由来の雑な説明をしたら、我愛羅は真顔で、仕事を怠けた罰で年に一回しか会えなくされた夫婦神がなんで願いを叶えたりするんだ?と身も蓋もない質問をされて、そんなん分かんねえよって返したら、つまり仕事を怠けるとろくな事にならんと言う寓意か、俺たちも気をつけねばな、と妙な納得をされた。いやいや、オレら超働き者だし。
それでも、二人でのんびり祭に賑わう町を歩くのが楽しいのはオレも我愛羅も一緒みたいで、ついはしゃいでしまうオレを見て、我愛羅が時々ふわりと笑う。
その顔がすごく幸せそうに見えて、嬉しくてたまらなかった。
こんな風に一つの不安もなく自分の気持ちを全部預けて幸せな気持ちになれるのは、やっぱり俺にとっては我愛羅だけで、我愛羅にとってもそうだったらいいなと思う。ふわふわとあったかい気持ちのままに、すぐ隣で揺れる白い手をぎゅってしたくなったけど、流石に人前では我慢した。
混み合った商店街を抜けて、ようやく着いたアカデミーの前は大きな笹飾りを取り囲むように黒山の人だかりで、その賑やかさと飾りの迫力になのか我愛羅が見入ったように足を止めた。
篝火に照らされた門の前に向かい合わせに飾られた二本の笹は、色鮮やかなの大量の短冊と七夕飾りで、少し手を伸ばせば枝に手が届くほどゆさりと重たげにたわんで、その枝にあつまったみんなが、さらに手にした短冊を次々に付けていく。
柔らかな灯篭に照らし出された顔は誰もが生き生きしていて、幸せそうだった。
もうずいぶん昔、じーちゃんが願いは明日を生きるための目標になるから、こうして年に一度形にする祭があるんだっていってた。
あの時は全然意味わからなかったけど、今はちょっとわかる。
あの時、無理やり書かされた短冊には、ぶすくれた顔でひとりじゃなくなりますようにって書いたんだ。
意識したわけじゃないけれど、あの時の願い事が俺を我愛羅と会わせてくれたのかもしれないと思う。
そっと隣をうかがえば、じっと祭りの様子に見入っていた我愛羅はすぐに俺の視線に気がついて、感心したようなため息をついた。
「壮観だな」
「だろ?」
得意げにニヤッと笑って見せて、笹飾りを指差した。
「あの一個一個が全部、里のみんなの夢で目標、きれーだろ?」
我愛羅はああ、と相槌をうって、それからふわりと笹飾りを仰ぎ見た。
「あの中にお前の願いもあるのか?」
「へ?あー、俺のは…」
突然の問いに続ける言葉を少し迷う。短冊を書くために用意された机は順番待ちの長い列ができていて、そこに我愛羅を並ばせていいのかちょっとまだ迷っている。
でも、本音はどうしても一緒にそこに並びたかったから、思い切って口を開いた。
「オレのはまだ付けてねえの。短冊、お前と一緒に書きたかったからさあ。いい?」
できるだけ、軽くて明るい声で言ったつもりの言葉は語尾がほんの少し震えた。
気づかれなかったらいいなって、伺うみたいに目を上げると我愛羅の硝子みたいに綺麗な翠の目と目があってちょっと息をのむ。
俺の全部を見透かされそうな真っすぐな凪いだ瞳。
数秒置いて、その目がゆっくりと瞬いて、我愛羅は少し首をかしげた。
「どうしたらいいんだ?」
「え?」
柔らかな問いかけの意味がわからずに顔を上げると、我愛羅は不思議そうな顔で俺を見返していた。
「短冊、書くんだろう?」
「でも、すっごく並ぶってばよ?」
「俺も書いてみたい」
なんでそんな事を聞くんだって表情で、我愛羅はそう言って、固まったみたいに動けないオレのそっと袖を引いた。
その顔が、かすかだけど確かに笑っていて、胸を突き上げるように泣きたいような気持ちが湧いてきて困った。
ぐっと奥歯を噛み締めて一つ頭を振る。
そうして、オレは出来るだけ晴れやかに笑って我愛羅の手を握った。
「……おう!じゃ、あっち並ばねえとダメだってばよ!」
その手を引いて列を目指す。同じ歩調でついてくる彼の気配が嬉しくて、つないだ手も胸の奥もこれ以上ないほど温かかった。