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2025/07/29 21:44 |
サボテン

サボテン


渡したいものがあるから、という言葉に誘われて、訪れたナ
ルトの部屋は、あまりにも何も無く、そのことに少しだけ驚
いた。
あがってよ、言う声に脱ぎっぱなしにひっくり返ったナルト
の靴を横目に見ながら、自分の靴を脱いで部屋に上がる。
「あ、そこ座ってて。」
「ああ。」
それだけ言うとナルトはバタバタと奥の部屋の中に入ってい
った。
オレは、少し考えてから背負っていた瓢箪を床に置き、示さ
れた椅子に座る。
初めての部屋が、物珍しくてそのまま暇を埋めるようにあち
こち見回した。
……いや、興味が湧いたのは初めての場所だからじゃなく、
ここがナルトが暮らしている部屋だからなのだろう。
一人暮らしの小さな部屋は、座った場所からほとんど何もか
もが見渡せた。
台所に置かれたやかんとマグカップ。
今オレが座っている一人用の小さなテーブルセット。
それから、寝乱れたままのベッドと、後は箪笥やその上に置
かれたテレビくらいしかない。
どちらかといえばナルトは、何でも溜め込んで、捨てられな
いタイプだと思っていたが、意外なほど何も無かった。
ぼんやりとそれらを眺めていると、さして間をおかずナルトが
戻ってくる。
「ゴメン、待たせたってば。でさあ、これ。」
差し出されたのは、小さなサボテンの鉢だった。
意図が解らず、首を傾げて青い目を見返すとナルトは笑った。
「渡したいものがあるんだって言ったじゃん。」
「そう、か。」
そっと受け取ると、ナルトは嬉しそうにもう一度笑った。
「オレさあ、明日、里出るから。お前も明日砂に帰るんだろ?」
「……」
頷いて先を促す。
「部屋、何もねえだろ?みんな処分したんだってば。人にあげた
りしてさ。エロ仙人とさ、修行に出んの。どれくらいで戻れるか
解んねえから。けど、絶対強くなって帰ってくんの。そんで……」
その先は聞かなくても解った。この部屋にモノがない理由も。
「絶対、アイツを連れ戻す。」
揺るがない意思を持つ声に表情に、遠くない未来、きっと彼はその
願いを現実にするのだろうと、素直にそう思えた。
「そうだな。」
「うん。」
笑う顔がひどく眩しくて、目を眇める。いつか、彼が帰る日までに、
自分は願った何者かになれるのだろうか。そんな風に思った。
ふいに頬に何かふれた。いつの間にか俯けていた顔に、ナルトの手が
触れていた。驚いて見返すと、ナルトがまっすぐに俺の目を見ていた。
「だから約束。帰ってくるまで、オレは強くなる。アイツを連れ戻せ
る位に。我愛羅は……」
一度、大きく息をすう。
「お前がなりたい自分になれってば。これは、その約束。」
これならお前の傍でも育つだろ、と小さなサボテンを示した。
「形があったほうが忘れないだろ?」
「……ああ。」
にっと笑った顔に自分はきっと一生この日を忘れないだろうと思った。


                                 fin


 


 

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2015/06/23 23:39 | Comments(0) | お話
ナルト展に行ってきました。
本日、お仕事で東京に行く用事があったので、思い切ってナルト展に行ってきました。
ツイにも少し書いたのですが、本当に行ってよかったし行けてよかった。
なんだか色んなことを思い出しました。
もともとwjの読者だったので、連載第一回も本誌で読んでて、長いこと腐女子的に
嵌ることはなかったけどずっと読んでたよなー…とか。もうあれから15年ですってよ。
とか。思うところは色々ですが、とにかく改めて、岸本先生の原画の綺麗さに見入っ
てしまいました。それから、撮りおろしの映像の迫力と音楽にも。
とにかくすべてに愛を感じる良い展示でした。
木の葉崩しのあたりの先生の直筆のナルトと我愛羅を見て、不覚にもなきそうになっ
てしまいました。
正直、何重の意味でも不純な嵌り方をしている私でしたので、こんな風に素直に感動
できると思ってなかったの。
最後の最終回のカラーとかも本当に見入ってしまったです。
つい一週間ほど前に再び足を突っ込んだわけですけれど、それがあと少しでも遅かっ
たなら、見に行けなかったんだと思うと感慨深いなあと思います。
本当にラッキーでした。
欲をいうなら、もう一回くらい行きたかったなー…。
大阪、かあ……。

あ、あと、帰りに我愛羅様のコースター目当てにとんかつ食べて帰ってきましたvv
めっちゃうまかったです。同類の方も多かったよ。

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2015/06/23 23:38 | Comments(0) | 日々
ソファ

ソファ

ソファの上で我愛羅は持ち込みになってしまったらしい書類を読んでいる。


ソファの下でオレはソファにもたれて本を読んでいる。


時々見上げると、難しい仕事用の顔のあいつ。
真剣な緑の目も、眉間によったしわも、意外と長いまつげが落とした影もいいな、って思う。


些細なことでこみあげてくる愛しさに、自然、笑顔になっているのが分かった。


じゃまをしないように、そっと立ち上がって台所に行く。
一人だったら冷蔵庫の中の麦茶ですますけど、我愛羅は冷たいものが、あんまり好きじゃないから。
やかんを火にかけて、ちゃんと茶をいれる。買ってきたばかりの煎茶をあけて、鼻歌まじりに、急須にいれて、湯を注ぐ。ごそごそと棚をあさって、二人分の湯のみを出して。熱い煎茶を注いだそれを、まあいいか、と両手で持って、のんびりとソファにむかう。


背後に立つと、書類に夢中だった我愛羅は、オレの気配に気付いて、なんだ?っていうかんじで、オレを見上げてくる。するどさのぬけた、素の表情が好きだ。


両手に茶碗を持ったまま、おおいかぶさるみたいに、触れるだけのキスをする。


「なんだ?」


「お茶。飲むだろ?」


ちょっと湯のみを上げて笑うと、それを見とめたこいつが柔らかく破顔した。


「ああ。悪いな」


のばされた白い手に湯のみを渡してやり、ぐるっとソファをまわって隣にすわる。


自然と空けられているオレの居場所。そんなささやかな事が、うれしくてたまらない。


甘えるみたいに寄りかかったら、重い…とぼやいて、それでもそのままオレをくっつけて、お茶をすすりながら、書類をめくってる。


「仕事、まだおわんねえの?」


「これだけ読んだら…」


残り厚さ3ミリくらいになった紙束を振って見せて。まあ、あと30分くらい、このままでいるのも悪くない。


ずるずると、頭を落として、我愛羅のひざの上にのっける。


「おい…」


「へへ…」


呆れたような声に笑って見せると、我愛羅はため息をついて、書類に目を戻しながら、オレの頭をそっと探った。細い指の感触が気持ちいい。


二人でいられる大事な時間。


オレの一番幸せな時間。


これからもずっと、こんな時間を重ねていけたらいいと思って、オレは目を閉じた。





fin


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2015/06/22 15:40 | Comments(0) | お話
砂の里にて

砂の里にて


何処に行く?とお前から聞いてきたのが嬉しくて、声をたてて笑ったら、お前はちょっとだけ不思議そうな顔をしてから、ふっと口元を和ませた。
「お前はいつも笑っているな。」
「ん?そうかー?」
そんな風にとぼけてみたけれど、本当はちゃんと自覚してる。
だって、お前といるとどんなことでも楽しくて仕方がない。
こうやって、並んで歩いているだけでも、いつもとはまるで違うから。
お前が、他の誰にも見せないような表情を、オレの前ではひっそりと見せてくれるから。
そうして、それにオレが気付けるから。
「で、何処に行く?」
「んー…じゃあさ、じゃあさあ。お前が一番好きなところに行きたいってばよ!!」
そんな風に答えたらお前は、眉間に皺を寄せて黙り込む。
そうして、しばらく考え込んでからちいさく呟いた。
「夜…」
「ん?」
「…夜になったら。」
「よる?」
「夜じゃないと意味が無いんだ。」
「…ふうん?」
その意味は図りかねたけれど、とりあえず頷いて、少し困ったような顔をしているお前にぱっと笑って見せた。
「じゃあさあ、それまでお前のうちに行きたいってば。」
「家?」
「そ!だって、オレ、お前の部屋って見たことないし!!お前だけオレの部屋を知ってるっていうのも不公平だろー?」
冗談めかしていうと、どっちにしろ今日は泊まるんだろうと言いながらも我愛羅が小さく笑った。なんというか、いいなって思った。
こういうのがいい。ずっとこんな風な時間が続いたら良いのにって思った。
風影邸に向かう道を並んで歩く。時々並んでいる店なんかを冷やかしながら。
ふっと隣を見ると我愛羅が穏やかな目でオレと同じものを見ていて、そのことに、ちょっとどきっとした。
「なあ、があら。」
「なんだ?」
呼びかければ淡い淡い緑の目がまっすぐオレを見て。
それに、オレは自分ができる最高の笑顔を向ける。
そっと耳元に顔を寄せた。
「オレさ、お前と居るときが一番楽しい。」
顔を覗き込んだら、すうっと目をそらされた。でもさあ、無表情のまんまでも赤くなった耳がみえてる。ちょっとかわいそうだから、気付かない振りをして、沸きあがってくる笑いをこらえた。
夜がすっごい楽しみだなーって黙ったまま少し前を歩くお前のまだ赤い耳を横目で見ながら思った。
家に着くまであと少し。
夜まではまだ少し時間がある。
お前はオレを何処に連れて行くんだろ?
ちょっとずつ知っていくお前のこと全部が愛しくて仕方がなかった。


                             Fin


 

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2015/06/22 15:38 | Comments(0) | お話
星に願いを

星に願いを


「さむっ…。さすがに
12月だと砂の里もさむいなー」


夜の空気の冷たさに、ぶるりと身体をふるわせてナルトは言った。
その様子に我愛羅も少し笑って返す。


「そうだな。まあ、いつでも夜になるとここは冷える」

部屋から抱えてきた厚手の毛布を渡してやり、自分もそれを羽織った。

「へへっ。さんきゅ~。さすが我愛羅は用意がいいってば」

「慣れているからな」

持ってきた魔法瓶とマグカップを袋からだし、熱いココアを注いで渡すとナルトは嬉しげに
受け取った。
ちょうど、切り立った崖の端から足を投げ出すように座り、一口、二口、湯気を立てるココア
をすする。
キンと冷えた夜の空気に、寄り添って座った互いの体温が余計に暖かく心地いい。
それが、なんとなく嬉しくて、どちらからとも無く顔を見合わせて笑った。


「なあ、ここにはよく来んの?」


どこか行きたい所はあるか?と聞いた我愛羅に、ナルトはこの里でお前が好きな場所に行きたいと
答えたのだ。
我愛羅はしばらく考えていたようだったが、夜になったら、といった。
言葉のとおり、夜になって連れてこられたのは、里の入り口のあたりの見晴らしの良い高台で、
砂漠も里の全景も良く見える場所だった。
誰も来ない、一人きりでいられる所だけれど、どこか遠くに人の気配が感じられる場所。
昔、自分がどうしようもない気分のときに、一人きりで遊んでいた場所とひどく似ていた。
傷つかずに済んで、孤独になりすぎずにすむ距離。
自分たちはこんなところも良く似ている。


「そうだな…。」


そう、考えるように呟いて、我愛羅は視線を遠くへ向けた。


「子供の頃は毎晩のように来ていた。今もたまに来る。」


ぽつり、ぽつりと途切れがちに言葉をつむぐ。


「いつも夜にくる。夜だとここには誰も来ないから。いつも砂漠と空を見ていた。」


星がきれいに見えて…そう呟いて我愛羅は空を見上げた。
いつも変わらない、降ってきそうなほどの星空。


「昔から、この場所が一番落ち着いた。どうしてだろうな…。でも、いい場所だろう?
なにもかも吸い込まれていくみたいで静かな気持ちになれる。」


「そっか…」


静かな声に相槌を打ちながら、ナルトも空を見上げた。
月明かりに照らされた、どこまでも続く砂地と澄み切った夜空と無数の星。


「大抵、どうしようもない気分の時にくるから、こんなに落ち着いてこの景色を見るこ
とはないんだが… …でも…お前とこられて、よかった。」


秘密を打ち明けるようなそんな声だった。空に視線を向けたままの我愛羅は、静かに笑う。
やわらかい月の光に浮き上がるその表情が穏やかなものであることが嬉しいと思った。
他の全てが恵まれて見える日があることを知っている。
人の中にあるときに余計に一人であることを思い知らされる日があることを知っている。
昔、自分たちが心に負った傷は良く似ていて、とても深く、癒されたように見えても、
時々ひどく疼くことを。
他の誰が解らなくても、自分達は良く解っているから。

だから、自分たちは一緒にいて、その痛みを晒すことができるのかもしれない。
包まった毛布の端からのぞいている白い手をぎゅっと掴む。
体温と一緒に心まで伝われば良いとナルトは思った。
握り返してくる冷たい手の強さに自分たちが同じように感じているのだと信じようと思った。


「なあ、我愛羅…」
「…ん…?」
「オレってば、やっぱお前のことが好きみたい。」


こっちを凝視して、絶句している顔がかわいい。そのまま、体格差にものを言わせて背中か
ら抱き込む。


「…!!…おまえっっ…!!」
「いいじゃん。」


じたばたと暴れる身体をぎゅうっと抱きしめて体全部をくっつける。自分達はもう一人じゃない。


「好き。マジで好き。大好き…。」


ナルトは額をその細い肩に埋めるように預けて笑った。いくら、言葉にしても足らないくらい愛し
さがとまらない。


「ほんと、会えてよかった…」
「それは、オレのセリフだ。」


泣き笑いのようにこぼれた声に、ぽつり、と我愛羅はつぶやいた。


「あえて、よかった。」


それは小さくかすれた、それでも、胸が痛くなるほど重い言葉。
泣いてしまいそうで、抱きしめる腕に力をこめると、我愛羅はうつむいたまま少し笑う。
そのまま背中を預けて、そっと耳元に。


「…………る…」
「…!!!!我愛羅!?」
「なんだ?」


耳に届くか届かないかの声でささやかれたのは。
びっくりしすぎて固まるナルトに我愛羅は涼しい顔で。


「……!!もう一回!!もう一回言って!!頼むから!!」
「さあな。聞いてなかったのか?」
「意地悪言わないでさー!!頼むってば!!」


低く笑って身体を離して立ち上がる。


「そろそろ、戻るか。テマリたちがうるさいからな。」
「我愛羅~!!」



伸ばされた手を掴む。


冷たい星空の下で、繰り返し願ったことは何だったのか。


痛みをこらえて蹲っている自分に差し伸べられる暖かい手ではなかったか。


手を伸ばせば届く、暖かい手。


互いを支えあうことができる温度。


たぶん願いは叶ってる。


あとは、つないだ手を離さないように。



                    fin



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2015/06/22 15:36 | Comments(0) | お話

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