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2024/05/07 16:55 |
サボテン

サボテン


渡したいものがあるから、という言葉に誘われて、訪れたナ
ルトの部屋は、あまりにも何も無く、そのことに少しだけ驚
いた。
あがってよ、言う声に脱ぎっぱなしにひっくり返ったナルト
の靴を横目に見ながら、自分の靴を脱いで部屋に上がる。
「あ、そこ座ってて。」
「ああ。」
それだけ言うとナルトはバタバタと奥の部屋の中に入ってい
った。
オレは、少し考えてから背負っていた瓢箪を床に置き、示さ
れた椅子に座る。
初めての部屋が、物珍しくてそのまま暇を埋めるようにあち
こち見回した。
……いや、興味が湧いたのは初めての場所だからじゃなく、
ここがナルトが暮らしている部屋だからなのだろう。
一人暮らしの小さな部屋は、座った場所からほとんど何もか
もが見渡せた。
台所に置かれたやかんとマグカップ。
今オレが座っている一人用の小さなテーブルセット。
それから、寝乱れたままのベッドと、後は箪笥やその上に置
かれたテレビくらいしかない。
どちらかといえばナルトは、何でも溜め込んで、捨てられな
いタイプだと思っていたが、意外なほど何も無かった。
ぼんやりとそれらを眺めていると、さして間をおかずナルトが
戻ってくる。
「ゴメン、待たせたってば。でさあ、これ。」
差し出されたのは、小さなサボテンの鉢だった。
意図が解らず、首を傾げて青い目を見返すとナルトは笑った。
「渡したいものがあるんだって言ったじゃん。」
「そう、か。」
そっと受け取ると、ナルトは嬉しそうにもう一度笑った。
「オレさあ、明日、里出るから。お前も明日砂に帰るんだろ?」
「……」
頷いて先を促す。
「部屋、何もねえだろ?みんな処分したんだってば。人にあげた
りしてさ。エロ仙人とさ、修行に出んの。どれくらいで戻れるか
解んねえから。けど、絶対強くなって帰ってくんの。そんで……」
その先は聞かなくても解った。この部屋にモノがない理由も。
「絶対、アイツを連れ戻す。」
揺るがない意思を持つ声に表情に、遠くない未来、きっと彼はその
願いを現実にするのだろうと、素直にそう思えた。
「そうだな。」
「うん。」
笑う顔がひどく眩しくて、目を眇める。いつか、彼が帰る日までに、
自分は願った何者かになれるのだろうか。そんな風に思った。
ふいに頬に何かふれた。いつの間にか俯けていた顔に、ナルトの手が
触れていた。驚いて見返すと、ナルトがまっすぐに俺の目を見ていた。
「だから約束。帰ってくるまで、オレは強くなる。アイツを連れ戻せ
る位に。我愛羅は……」
一度、大きく息をすう。
「お前がなりたい自分になれってば。これは、その約束。」
これならお前の傍でも育つだろ、と小さなサボテンを示した。
「形があったほうが忘れないだろ?」
「……ああ。」
にっと笑った顔に自分はきっと一生この日を忘れないだろうと思った。


                                 fin


 


 

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2015/06/23 23:39 | Comments(0) | お話

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