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2024/05/18 13:17 |
雨の日




「あ、やば…」
「どうしたんだ?」

ふと、冷蔵庫に貼ってある紙に目をとめたナルトが小さく声を上げたのが耳に入って、我愛羅は軽く首を傾げた。

「ん、ああ。おとつい出した報告書に付けなきゃいけなかった書類、付け忘れたみたいなんだよなー……。んー…わるい、ちょっと出てくるってばよ。一時間くらいで戻るから。帰って来たら飯食いに行こうな。」

そう言うと、ナルトは貼りっぱなしになっていたらしい書類を手に飛び出して行った。

呆気に取られたまま、その背中を見送って我愛羅は小さくため息をついた。

「相変わらず、せわしない奴だ…」

呆れてもらした呟きには、愛しさが混じる。

ベランダに出て、下を見ると走って行くナルトの背中が小さくなって行くのが見えて、すぐに見えなくなった。

湿った風を感じて、ふと、上を見上げれば、いつもより低い灰色の空。そう時間をおかず降り出しそうだな、と思った。

雨は別に嫌いじゃない。

砂の里の雨期も悪くないが、柔らかい音を立てて降る梅雨の雨を、我愛羅はなんとなく気に入っている。この里同様に、どこか暖かい気配がするから。

昨日は雨の中、二人で散歩をした。

雨が苦手なナルトが、どういう風の吹きまわしか、出掛けようと言い出したから。

考えてみれば、この里に来るようになって大分たつが、雨の日に外に出ることはあまりなくて、いつも窓ごしに降る水滴を眺めるばかりだった。滝のようでない、やさしい雨が降る外には興味があったし、ナルトがやけに楽しそうだったから、すぐに頷いた。

傘が一本しか無くて、傘が売っている雑貨店までしょうがないからふたりで入った。

傘にあたる雨の音、濡れて鮮やかさを増した緑。

ぬれないように自然に近づくいつもより近い距離。

ナルトは終始ご機嫌で、話す間も笑いが絶えない。

だから、我愛羅もつられるみたいに、笑っていた。

それは店に着いてしまうのが勿体ないような気がするほど、心地いい時間で、あんな風にまたどこか行くのも悪くないなと思う。

部屋に入り、窓際に寄せらた椅子に座ると伏せておいた読みかけの本を開く。

できてしまった空白の時間を埋めるみたいに我愛羅は、ゆっくりとページを操った。

読み終えた本を閉じて、我愛羅は軽く目頭を押さえた。ひとつ息をついて、時計に目をやる。

半刻ほど進んだ針に、どうしようかと、しばし頭をめぐらせた。

その時、小さな音が聞こえたような気がして我愛羅は窓から外を見た。

「ああ、降ってきたのか…」

ぱらぱらとまばらに落ちる水滴は、いくつもの丸い跡をつくり、やがて、くっつきあって、町の色を変えていく。

しばらくぼんやりとその様子を眺めていて、我愛羅はそういえばナルトが傘を持って行かなかったことに気がついた。

「………」

玄関の方に顔を向け、少しの間思案する。

迎えに行こうか。

降り出した雨はさほど強くはないけれど、でも、傘がいらないほど弱くもない。

我愛羅はそこまで考えて、ふっと笑った。

言い訳だ。

本当はただ、迎えに行って驚く顔が見たいだけ。

決めてしまえば、迷うことなど何もない。

閉じた本をその場に置いて、我愛羅は玄関に向かう。

持っていく傘を出そうと昨日、ナルトが傘をしまっていた納戸を開けた。

「……?」

中には昨日使った二本の傘と一緒にしまわれた数本の傘。

理由も目的もよく分からなかったが、どうやら担がれたらしい。

始終機嫌のよかった彼の顔を思い出して、まあ、いいかと我愛羅は思う。

一つの傘で歩くのはなぜかとても楽しかったから。

きっと、ナルトも同じに違いない。

口の端に笑みを浮かべて、我愛羅は納戸から買ったばかりの自分の傘をだして、少しだけ
迷ってからナルトのものも出す。

あえて、昨日、彼が使っていたのとは違う色の傘。

だって、ただ騙されてやるのはくやしいじゃないか。

我愛羅は小さくほくそ笑む。

二本の傘を手に玄関を開けて外にでて、昨日は二人でおりた階段を今日は一人でゆっくり
とおりる。

ぽんっ、と音を立てて傘を開いて、慣れた足取りでアカデミーへ向かう道を歩き出した。

ぱらぱらと雨が傘に当たる音に目を細めながら、道端に目を向ければ、咲いているのは雨に濡れて色を増した紫陽花。

鮮やかな青は、一番好きな色を思い出させる。

早く会いたい。

地面にできた無数の波紋を踏みながら、我愛羅は足を早めた。

やがて、アカデミーが見えてくる。

玄関口で困ったみたいに、空を見上げる見慣れた姿を見つけた。

「ナルト。」

小さく名前を呼んだ声に、ぱっとこちらを向いた鮮やかな青い目が、我愛羅をとらえて、驚いた
ように大きく見開かれる。

それから、くしゃりと子供のような顔で笑った。

思った通りに。

「我愛羅!」 

名前を呼んで、ナルトは雨に濡れるのも厭わず、大急ぎといった様子で、駆け寄ってきた。

「馬鹿。濡れるだろう?」

向かい合う距離まで来て、我愛羅はそう言ってナルトに傘をさしかける。

「さんきゅ。なあ、迎えに来てくれたのか?」

「ああ、雨が降ってきたからな。ほら。」

嬉しそうに弾んだ声に、答えながら我愛羅は、持ってきたナルトの傘を差し出した。

あ、とそれを見てナルトは、決まり悪げに目を泳がせてから、無表情を装った我愛羅をちらりと

うかがった。

無言の見つめ返す我愛羅にナルトは、ぽそりと口を開いた。

「…あー…ちょっと出来心で…ゴメン。」

そう言って上目使いで我愛羅を伺うナルトは、まるで叱られた犬のような顔で、我愛羅は無表情を保てず、目元を和ませた。

「別に怒ってなどいない」

それから、少し考えて続けた。

「オレも楽しかったから。」

ナルトの表情はぱっと明るくなる。

なぜか、恥ずかしいような気持ちになって、我愛羅は少し乱暴にナルトに傘を押し付けた。

「行くぞ。」

「あ、待てってばよ!」

くるりと背中を向けて、早足で、歩き出した我愛羅を、ナルトが追いかける。

「なあ、せっかくでて来たんだからさ。一楽に寄ってこうってば」

追い付いて、横に並んだ彼は、無邪気にそう要って笑って、我愛羅の手をつかんだ。傘のせいで

開いた距離が詰まる。

うなづけばまた、ナルトが、晴れやかに笑って、我愛羅はああ、来て良かったな、と思った。

雨も晴も、くもりでさえも、ナルトが隣にいるだけで鮮やかに色が変わる。

口にはとても出来ないけれど、我愛羅は鮮やかに見える景色に目を細めた。








                             FIN


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2015/07/04 00:00 | Comments(0) | お話
レイニー・デイ






思いのほか、我愛羅は雨が好きだ。


オレにとっては、退屈で仕方ない雨の休日も、こいつにとっては違うらしい。


今も本を片手に開いたまま、ぼんやりと窓の外を眺めている。


小さく響く雨の音。窓を伝って流れる水滴。


放って置かれているオレはといえばあくび交じりにベッドの上に転がって、雑誌をめくっている。


二人だけの休日も大分珍しくなくなった。年に何回もあるわけではないけど、互いに休暇と仕事の予定をやりくりして、精一杯会える時間をつくってる。


まあ、大体の場合は、オレが仕事を詰めて、長期休暇をもぎとって砂の里の我愛羅のところに押しかけるパターンが多い。長期っていっても、一週間か十日くらいがせいぜいだし、おまけに特務でぶっちぎられるのもしょっちゅうだけど。


砂の里までの往復の時間がオレの足で五日ってとこだから、一緒にいられるのは二日から五日ってとこか。で、我愛羅も休みをその時に合わせてとって、一緒に過ごすわけだ。


風影様になっちまったこいつは、休暇中でもめったなことでは砂の里を離れることはできないから、こればっかりは仕方がない。我愛羅はいい加減なことができない性分だし。


そのかわり、今日みたいに我愛羅もこっちに来る仕事があるときは、その前後に休みをとって、今日みたいに、オレのうちで休暇を過ごしたりする。そうすると、往復の時間を稼げるから。


まあ、そんなふうにして、一緒にいる時間が積み重なれば積み重なるほど、特別なことはしなくなって、出かけたりとかより、こんなふうにぼんやり二人で部屋の中でゴロゴロ過ごすことが増えた。愛が減った、とかじゃなくてさ、むしろ、どんどん増えてるんだけど。普通に大事に気を使わない時間を過ごせるようになったっていうか、素が出せるようになったっていうかさ。ちょっとずつ、進展してるのかなー、って思う。


時々は、飯の材料を買いに行ったりもする。意外だけど、我愛羅、わりと買い物が好きみたい。砂の里じゃ、顔が知られすぎてるし、我愛羅自身も変に気を使って、出かけられないらしくて。そのせいか、ちょっとした買い物でも一緒に行くっていう。何を買うってわけじゃなく、売ってるものを珍しそうに眺めてたりとか、手にとってみたりとか、けっこう楽しそうで、そういう顔みるのがオレの楽しみ。


そういえば、スーパー行くと、いっつも微妙に喧嘩になるんだよな。オレがインスタントラーメンばっかり買うから。もっと、まともな物を喰え!って。で、しぶしぶ棚に戻すんだけど。ほんとはさ、わざとだったりする。そんな風に怒られたりするの結構好きなんだよなー。怒った顔もかわいいし。愛されてるなーって思うから。


そういう顔、もっと見せてほしい。もっとわがままだって言っていいのにな。


ちょっと控えめなとこもすきだけど、笑った顔も怒った顔も、泣き顔だって全部好きだし。


あせらないから、少しずつでも色んな顔を見せてくれたらって思ってる。


ずっと、欲しくても手に入らなかった何かを、オレ達はゆっくりと取り戻しているのかもしれない。こんな風に一緒にいるだけで、心のどこかが満たされていくような気がする。


我愛羅も同じように思っていてくれるといいな。オレと一緒でいて、ちょっとでも幸せだって思っててほしい。オレが今、幸せだって思っているみたいに。


きっと、少しずつ、ゆっくりでも二人で進んでいったら、もっと幸せになれる。


お前が、立ち止まるときはちゃんと待ってるから、オレが進めないときは、少し待ってね。たぶん、こんなこと言ったら、あたりまえだろうって、呆れ顔で言うんだろうな…。


でもさ、それでも言いたいの。ちゃんと、本気で好きなんだって。


これからも、ずっともっと好きになっていくんだって。



寝転がったまま、顔だけ向けて、手をのばせば届く距離の白い横顔を見る。よいしょ、と身体を起こして、窓に身体を預けるようにして外を眺める我愛羅のほうに、にじり寄った。


「なんだ?」


気配に気付いたのか、まっすぐ、こっちに向けられた緑の目に笑いかける。


本を閉じながら、我愛羅は少し首を傾ける。こっちの意図が読めないときのこいつの癖。


両腕で、細い腰を抱き寄せて、薄い腹に甘えるみたいに顔を埋めた。


うっすらと我愛羅の匂いがする。あたたかい人肌の匂い。


「おい…」


そっと髪に差し入れられた指と呆れた声に誘われるようにして、顔を上げて思いついたことをくちにした。


「ん~。いや、さ。これから散歩でもいかねえ?」


雨の中でデート。とっさの思いつきにしては、うん、けっこう悪くねえかも。


「これからか?」


降り止まない雨の窓の外に目をやって、困惑顔の我愛羅。オレが、雨があんまり好きじゃないの知ってるからなんだろうけど。


確かにオレは雨は好きじゃないけどさ。うちの中は退屈だし、濡れるのもあんまり好きじゃないし。でもさ、お前と一緒なら全然OK。


「そ!たまにはそういうのもいいだろ?雨の中のデート!」


帰りに夕飯の買い物でもしてさ…と、とびっきりの笑顔でおどけてみせると、つられたように我愛羅も目をなごませた。


「…悪くないな。」


「じゃ、決まりー。」


簡単に出かける準備をして、並んで玄関に向かう。傘を出そうとして、ちょっとだけイタズラ心が沸いた。


「傘、一本しかねーからさ。途中まで一緒でいいよな?」


「別にかまわないが。」


つい、にやついてしまうオレの顔を見て、訝しげに首をかしげて。それでも、あっさりとうなずいた。心の中でよっしゃ!!とこぶしを握る。


たぶん、相合傘なんて想像もしてないんだろうけど。でも、それでいい。


ぱたんと閉じた物置で、かちゃんと残っている傘が音を立てた。


一瞬ドキッとしたけど、全然気付いてない我愛羅にほっとしながら、出しっぱなしの靴を履く。隣で我愛羅も自分の靴を出していた。


「じゃあさ、とりあえず傘屋によってー」


そんなことを言いながら、二人で肩を並べて部屋を出る。鍵を閉めて、のんびり階段を降りて。ぱらぱらと雨が落ちてくる空を見上げた。いつもなら、微妙に憂鬱になるところだけど、楽しくてしかたないのはお前が隣にいるから。


「上機嫌だな。」


呆れたようにいう我愛羅の顔を覗き込んで、俺は言う。


「だってお前と一緒だもん」



                       Fin


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2015/06/28 21:21 | Comments(0) | お話
サボテン

サボテン


渡したいものがあるから、という言葉に誘われて、訪れたナ
ルトの部屋は、あまりにも何も無く、そのことに少しだけ驚
いた。
あがってよ、言う声に脱ぎっぱなしにひっくり返ったナルト
の靴を横目に見ながら、自分の靴を脱いで部屋に上がる。
「あ、そこ座ってて。」
「ああ。」
それだけ言うとナルトはバタバタと奥の部屋の中に入ってい
った。
オレは、少し考えてから背負っていた瓢箪を床に置き、示さ
れた椅子に座る。
初めての部屋が、物珍しくてそのまま暇を埋めるようにあち
こち見回した。
……いや、興味が湧いたのは初めての場所だからじゃなく、
ここがナルトが暮らしている部屋だからなのだろう。
一人暮らしの小さな部屋は、座った場所からほとんど何もか
もが見渡せた。
台所に置かれたやかんとマグカップ。
今オレが座っている一人用の小さなテーブルセット。
それから、寝乱れたままのベッドと、後は箪笥やその上に置
かれたテレビくらいしかない。
どちらかといえばナルトは、何でも溜め込んで、捨てられな
いタイプだと思っていたが、意外なほど何も無かった。
ぼんやりとそれらを眺めていると、さして間をおかずナルトが
戻ってくる。
「ゴメン、待たせたってば。でさあ、これ。」
差し出されたのは、小さなサボテンの鉢だった。
意図が解らず、首を傾げて青い目を見返すとナルトは笑った。
「渡したいものがあるんだって言ったじゃん。」
「そう、か。」
そっと受け取ると、ナルトは嬉しそうにもう一度笑った。
「オレさあ、明日、里出るから。お前も明日砂に帰るんだろ?」
「……」
頷いて先を促す。
「部屋、何もねえだろ?みんな処分したんだってば。人にあげた
りしてさ。エロ仙人とさ、修行に出んの。どれくらいで戻れるか
解んねえから。けど、絶対強くなって帰ってくんの。そんで……」
その先は聞かなくても解った。この部屋にモノがない理由も。
「絶対、アイツを連れ戻す。」
揺るがない意思を持つ声に表情に、遠くない未来、きっと彼はその
願いを現実にするのだろうと、素直にそう思えた。
「そうだな。」
「うん。」
笑う顔がひどく眩しくて、目を眇める。いつか、彼が帰る日までに、
自分は願った何者かになれるのだろうか。そんな風に思った。
ふいに頬に何かふれた。いつの間にか俯けていた顔に、ナルトの手が
触れていた。驚いて見返すと、ナルトがまっすぐに俺の目を見ていた。
「だから約束。帰ってくるまで、オレは強くなる。アイツを連れ戻せ
る位に。我愛羅は……」
一度、大きく息をすう。
「お前がなりたい自分になれってば。これは、その約束。」
これならお前の傍でも育つだろ、と小さなサボテンを示した。
「形があったほうが忘れないだろ?」
「……ああ。」
にっと笑った顔に自分はきっと一生この日を忘れないだろうと思った。


                                 fin


 


 

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2015/06/23 23:39 | Comments(0) | お話
ソファ

ソファ

ソファの上で我愛羅は持ち込みになってしまったらしい書類を読んでいる。


ソファの下でオレはソファにもたれて本を読んでいる。


時々見上げると、難しい仕事用の顔のあいつ。
真剣な緑の目も、眉間によったしわも、意外と長いまつげが落とした影もいいな、って思う。


些細なことでこみあげてくる愛しさに、自然、笑顔になっているのが分かった。


じゃまをしないように、そっと立ち上がって台所に行く。
一人だったら冷蔵庫の中の麦茶ですますけど、我愛羅は冷たいものが、あんまり好きじゃないから。
やかんを火にかけて、ちゃんと茶をいれる。買ってきたばかりの煎茶をあけて、鼻歌まじりに、急須にいれて、湯を注ぐ。ごそごそと棚をあさって、二人分の湯のみを出して。熱い煎茶を注いだそれを、まあいいか、と両手で持って、のんびりとソファにむかう。


背後に立つと、書類に夢中だった我愛羅は、オレの気配に気付いて、なんだ?っていうかんじで、オレを見上げてくる。するどさのぬけた、素の表情が好きだ。


両手に茶碗を持ったまま、おおいかぶさるみたいに、触れるだけのキスをする。


「なんだ?」


「お茶。飲むだろ?」


ちょっと湯のみを上げて笑うと、それを見とめたこいつが柔らかく破顔した。


「ああ。悪いな」


のばされた白い手に湯のみを渡してやり、ぐるっとソファをまわって隣にすわる。


自然と空けられているオレの居場所。そんなささやかな事が、うれしくてたまらない。


甘えるみたいに寄りかかったら、重い…とぼやいて、それでもそのままオレをくっつけて、お茶をすすりながら、書類をめくってる。


「仕事、まだおわんねえの?」


「これだけ読んだら…」


残り厚さ3ミリくらいになった紙束を振って見せて。まあ、あと30分くらい、このままでいるのも悪くない。


ずるずると、頭を落として、我愛羅のひざの上にのっける。


「おい…」


「へへ…」


呆れたような声に笑って見せると、我愛羅はため息をついて、書類に目を戻しながら、オレの頭をそっと探った。細い指の感触が気持ちいい。


二人でいられる大事な時間。


オレの一番幸せな時間。


これからもずっと、こんな時間を重ねていけたらいいと思って、オレは目を閉じた。





fin


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2015/06/22 15:40 | Comments(0) | お話
砂の里にて

砂の里にて


何処に行く?とお前から聞いてきたのが嬉しくて、声をたてて笑ったら、お前はちょっとだけ不思議そうな顔をしてから、ふっと口元を和ませた。
「お前はいつも笑っているな。」
「ん?そうかー?」
そんな風にとぼけてみたけれど、本当はちゃんと自覚してる。
だって、お前といるとどんなことでも楽しくて仕方がない。
こうやって、並んで歩いているだけでも、いつもとはまるで違うから。
お前が、他の誰にも見せないような表情を、オレの前ではひっそりと見せてくれるから。
そうして、それにオレが気付けるから。
「で、何処に行く?」
「んー…じゃあさ、じゃあさあ。お前が一番好きなところに行きたいってばよ!!」
そんな風に答えたらお前は、眉間に皺を寄せて黙り込む。
そうして、しばらく考え込んでからちいさく呟いた。
「夜…」
「ん?」
「…夜になったら。」
「よる?」
「夜じゃないと意味が無いんだ。」
「…ふうん?」
その意味は図りかねたけれど、とりあえず頷いて、少し困ったような顔をしているお前にぱっと笑って見せた。
「じゃあさあ、それまでお前のうちに行きたいってば。」
「家?」
「そ!だって、オレ、お前の部屋って見たことないし!!お前だけオレの部屋を知ってるっていうのも不公平だろー?」
冗談めかしていうと、どっちにしろ今日は泊まるんだろうと言いながらも我愛羅が小さく笑った。なんというか、いいなって思った。
こういうのがいい。ずっとこんな風な時間が続いたら良いのにって思った。
風影邸に向かう道を並んで歩く。時々並んでいる店なんかを冷やかしながら。
ふっと隣を見ると我愛羅が穏やかな目でオレと同じものを見ていて、そのことに、ちょっとどきっとした。
「なあ、があら。」
「なんだ?」
呼びかければ淡い淡い緑の目がまっすぐオレを見て。
それに、オレは自分ができる最高の笑顔を向ける。
そっと耳元に顔を寄せた。
「オレさ、お前と居るときが一番楽しい。」
顔を覗き込んだら、すうっと目をそらされた。でもさあ、無表情のまんまでも赤くなった耳がみえてる。ちょっとかわいそうだから、気付かない振りをして、沸きあがってくる笑いをこらえた。
夜がすっごい楽しみだなーって黙ったまま少し前を歩くお前のまだ赤い耳を横目で見ながら思った。
家に着くまであと少し。
夜まではまだ少し時間がある。
お前はオレを何処に連れて行くんだろ?
ちょっとずつ知っていくお前のこと全部が愛しくて仕方がなかった。


                             Fin


 

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2015/06/22 15:38 | Comments(0) | お話

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